ある日のこと、町の外れにある静かな園で、不思議な現象が次々と起こると噂されていた。
その園には、古い神社があり、そこを守る鬼の伝説が語り継がれていた。
鬼は、かつてこの地に住んでいた人々の心の奥に抱えたあらゆる悪意や恨みを代わりに背負い、その苦しみを軽減させる存在として崇められていた。
しかし、時が経つにつれ、誰もその存在を気に留めなくなり、今やその神社は忘れ去られた。
ある日の午後、若い女性の名は陽子は、友人たちとともにその園を訪れた。
美しい花々に囲まれた緑豊かな場所で、彼女たちは楽しげに笑いながらピクニックを開いていたが、不意に陽子の目に一つの異様なものが飛び込んできた。
それは、地面から何かが下に向かって引っ張られ、地面がゆらゆらと揺れ動く様子だった。
「見て!あれ、何だろう?」と友人たちに声をかけたが、誰も陽子の言葉に耳を傾けようとはしなかった。
陽子は興味を持ち、その異様なものに近づいてみた。
目の前には、錆びた鉄の鎖が埋まっており、その先には古びた瓦が見えた。
「何かが埋もれているのかも…」陽子はその異様な現象に引き寄せられた。
彼女が鎖を引っ張ると、地面から出てきたのは、かつてこの園に住んでいた鬼の像だった。
その顔は凄まじいほどの恐怖を感じさせ、陽子は思わず身震いした。
その刹那、静けさの中にざわめきが広がり、鬼の像がゆっくりと彼女に向かってささやいた。
「私の苦しみを解き放ってくれ。約束を果たせば、安らぎを与えよう。」その言葉が陽子の耳に響いた。
彼女は恐怖と興奮が入り混じり、何か大きな運命が彼女を待ち受けているのを感じた。
陽子は周囲を見回し、友人たちに助けを求めたが、彼女たちはその異様な現象に気づいていないようだった。
完全に呪縛されているような彼女たちの様子を見た陽子は、自らの寄り添いを感じながら、鬼との約束を結ぶことを決意した。
「私が何をすればいいのですか?」陽子が尋ねると、鬼は低く唸りながら答えた。
「我が苦しみを知り、そしてこの地を再生させることだ。」
その後、鬼は彼女に過去の記憶を見せ始めた。
先代の人々が心の内に抱える悪意や怨念、新たな生命によって受けた傷を、陽子は直に感じた。
彼女の心の中には苦しみが溢れ、過去の記憶が鮮烈に映し出された。
それと同時に、彼女自身の心の奥深くに眠る過去の罪も浮かび上がった。
陽子は鬼が持つ過去の痛みと、自身の過去の痛みがどこか共鳴していることに気づいた。
彼女は心の中で誓った。
「私は、あなたの苦しみを代わりに受け入れ、この園を再生させる手助けをする。私たちの心の痛みを分かち合い、共に癒やそう。」その言葉に鬼はうなずき、彼女の決意を受け入れた。
それから数日後、陽子は友人たちを集め、鬼の言葉を伝えた。
そして、彼女たちと共に、この園を再生させるための活動を始めた。
周囲の環境を整え、心の内にある痛みや過去を話し合い、新たな生命の息吹を吹き込むことで、徐々にその園は甦っていった。
やがて、鬼の姿も徐々に穏やかに変わり、最後には陽子の前に現れて微笑んだ。
「ありがとう、私の苦しみはこれで終わりだ。」その時、陽子は心の底から清々しい気持ちになった。
彼女は知っていた、過去を知り受け入れることで、今を生きることができると。
こうして、園は美しい場所となり、人々が集う場所へと生まれ変わった。
そして、鬼の教えは今もなお、彼女たちの心の中に生き続けるのだった。
善悪のはざまで揺れる人々の心を受け入れ、共に生きる道を選んだ陽子は、園の守り手として大きな役目を果たしていくこととなる。