古い村にひっそりと佇む神社があった。
その神社は、訪れる者が少なく、かつては栄えていたが、今では忘れ去られた存在となっていた。
ただ一つの大きな石が神社の前に横たわり、その周りには何もない静けさが漂っていた。
村人たちはその石を「悪石」と呼び、近寄ることを避けていた。
ある晩、村の若者たちが集まって肝試しをすることになった。
リーダー的な存在である秀樹が、仲間の真一と恵美を引き連れて神社に足を運ぶことにした。
彼らは、村の伝説に興味を持っていた。
悪石の伝説は、悪霊が宿るというもので、もしその石に触れる者がいれば、不幸が訪れると言われていた。
「お前、怖いのか?」秀樹が挑発するように言った。
真一は勇気を出して、石に近づいていく。
「大丈夫だって。悪霊なんているわけないし、ただの石だよ」と自らを励ましながら、石に手を伸ばした。
しかし、彼の手が触れた瞬間、砂塵が舞い上がり、突如して周囲の空気が変わった。
頭の中には冷たい氷のような感覚が広がり、真一は驚きと恐怖でその場に立ち尽くした。
「何が起きたの?」恵美が不安そうに尋ねる。
秀樹も顔を青ざめていた。
「なんか、変な響きが聞こえた。耳鳴りみたいに…」その瞬間、背後から低い呪文のような声が聞こえた。
奇妙なことに、その声は彼らの記憶の奥深くに潜んでいた、かつての村人たちの声だった。
彼らはこの地で何か悪を行った者たちであり、その罪が今、彼らに降りかかっているのだ。
不安と恐怖が増していく中、恵美が石の周りを忌々しげに見つめていると、足元から急激な寒気が押し寄せてきた。
石の亀裂から一筋の闇がゆらめくように出現した。
まるでその闇が人間の姿を形作るかのように、あらゆる形を変えながら彼女の目の前に現れた。
「私は、血を求める者。」その声が響いた。
闇に包まれた姿は、まるで人間の顔を持つが、どこか違和感のある異形であった。
秀樹は恐怖で声も出なかったが、真一ははっとなって後ずさった。
「逃げよう、こんなところにいるべきじゃない!」彼は叫び、仲間を引き連れて神社を飛び出した。
けれども、その夜はすでに彼らの運命を常に変えてしまっていた。
村の街灯が闇に沈んでいく中、彼らの逃げ道は次々と暗闇に閉ざされ、今や体験したことのない恐怖が迫ってきた。
突然、彼の足元が滑り、真一は転倒した。
振り返ると、暗い影はすぐそこに迫っていて、彼を捉えなかった。
秀樹と恵美は必死で助けを求めたが、真一の姿は闇に呑まれ、消えてしまった。
彼の叫び声が聞こえたが、それは次第に遠くなり、静寂が戻ってきた。
数週間後、村では真一の行方を探す人々で賑わっていた。
しかし、彼は戻らなかった。
いずれにせよ、あの悪石に触れたことで彼らが引き起こした悪は、まだ続いていた。
その後、村の若者たちは恐れを抱きながら、一種の禁忌を守るようになった。
誰一人として神社に近づく者はいなくなり、村の人々は夜になると家の扉を厳重に閉ざすようになった。
その後の代の者たちも、何か悪を持ち帰ることを恐れ、結局悪石の伝説は強く残っていった。
そして、村のどこかの角に佇む悪石は、今も静かに、次の獲物を待っているのであった。