神々が住まう古代の山々、その高き峰々に囲まれた美しい渓谷には、常に静けさが漂っていた。
人々はその地を神聖視し、立ち入ることを避けていたが、ある男がその禁忌を破った。
彼の名は彰。
都から遠く離れた村に住む若者で、家業である狩猟にあたるために、食料を求めて山に入った。
彼は音も無く、山の中を進んでいたが、ふとした瞬間、目の前に美しい神社の姿を見つけた。
その神社は、周囲の木々に隠されるようにひっそりと佇んでおり、長い間誰にも触れられていないようだった。
興奮と好奇心に駆られた彰は、神社の中に足を踏み入れた。
すると、神々の祀られた祭壇には、いくつかの立派な神具が並び、彼を迎えているようにも見えた。
しかし、彼の注意を引いたのは、その祭壇の脇にひっそりと寄り添うようにいた一匹の蛇だった。
その蛇は、影のように黒く、光を吸い込むような不気味な存在感を放っていた。
彰は、その美しさに一瞬心を奪われ、目が離せなくなった。
蛇は彼をじっと見つめ返し、次第にその瞳が深い悲しみを秘めていることに気づいた。
「どうして、ここにいるのか」と、彼は問いかけた。
しかし、答えは返ってこなかった。
唯一聞こえるのは、蛇のしなやかな体を揺らす音だけだった。
そこで彼は、もしかするとこの蛇は何か特別な存在かもしれないと考え、そのまま饗宴をすることにした。
食材を取り出し、祭壇の前で静かに祈るように食事を始めた。
ところが、食事を終えて神社を後にしようとした瞬間、場の空気が一変した。
蛇の目が異様な光を放ち、地面が揺れた。
驚いた彰は立ち尽くす。
目の前に、立ちこめる霧の中から神々の姿が現れた。
彼らは怒りに満ちた表情で彰を見つめていた。
すぐに彼はそれに気づく。
禁忌を破った代償が、彼に訪れたのだ。
「私を一時的に解放してくれた」と、蛇の声が響いた。
すると、その身体が徐々に変化し始めた。
まるで、古の神の神託を受けて、蛇は美しい女性の姿に変わっていった。
彼女は、かつての神々の守り手だったが、誰かが神社を訪れるたびに切なる願いを託けて、神々に忘れ去られてしまっていた。
「私は長い間、ここに縛られていた」と彼女は語った。
「あなたが私を解放してくれたが、神々の怒りを引き起こしてしまった。お前が帰ることができないのは、そのためだ。」
彰は自らの過ちを悔い、何とかこの呪いから逃れようと心に決めた。
「私がここにとどまれば、あなたの呪いを解くことができるかもしれない」と言い、神々に許しを乞うた。
しかし、神々は冷たく否定した。
「あなたの命は取られない。しかし、心の底からの切なる想いがなければ、帰ることはできない。」
彰は心の中で、自由と愛する者へ帰ることを願った。
その想いが力を持つように感じられた。
すると、蛇は再び姿を変え、戻った。
二人は互いの手をつなぎ、山の精霊たちに祈りを捧げた。
すると、奇跡が起こった。
神々は微笑み、男と蛇に新たな道を示した。
陽の光が差し込み、彼を包み込むように輝きを放ち出した。
告げられた言葉により、彰は自分の村へ帰ることが許された。
しかし、彼にはもう少しだけ忘れがたい思い出が残る。
切なる別れが招く運命を受け入れ、彼は神社を去ることとなった。
神々により、その存在は自由を得たが、彼の心には切り離せない過去が宿っていた。
彼女は自由に空を舞う蛇として、多くの人々に警告を発する存在となり、彰の心にその姿は深く刻まれることだろう。
彼は山を後にしながら、彼女との切ない思い出を抱えて生きてゆくのだった。