護は大学で心理学を専攻する23歳の学生だった。
彼は常に人の心の奥深くに潜む「身」というテーマに興味を抱き、心の闇を解き明かそうとしていた。
ある日、彼は仲間と共に廃墟となった古い精神病院を訪れることになった。
そこは近隣で、かつて患者たちが不幸な運命に見舞われた場所として知られていた。
仲間たちと一緒に病院内を探索すると、不気味な気配が漂っていた。
その中でも特に目を引いたのは、一室の壁に描かれた無数の文字だった。
それは「償」と「再」という二つの言葉が繰り返し書かれており、何か重い、悲しげな響きを持っていた。
護は不思議な感覚に取り憑かれ、壁に触れてみた。
その瞬間、彼の頭の中にかすかな声が聞こえた。
「償え、再び生きる為に…」それはかすかでありながらも、強い意志を感じさせる声だった。
その瞬間、護は理解した。
この場所には、過去の痛みと向き合うための償いが必要であり、彼自身も心の奥で何かを背負っているのだと。
仲間たちが笑いながら彼を呼ぶ声が聞こえ、護はその場を離れた。
彼は不安を抱えながらも、記憶の片隅にその声を封じ込めた。
廃墟を後にして現実の世界に戻ったが、その声は彼の心から離れることはなかった。
日々が流れる中、護は周囲との関係が次第に希薄になっていることに気づいた。
仲間との遊びや恋愛も手につかなくなり、孤独に苛まれていた。
何かが根本的に欠けていると感じる日々。
気持ちを整理しようと図書館で調べ物を始めると、その声が再び彼の心に蘇った。
「償え、再び生きる為に…」
護は考え抜いた結果、その声の意味を解明しようと、再び精神病院に向かうことを決意した。
今度は一人で。
彼はその場所が彼にとって、過去の痛みと向き合う準備が整った証だと感じた。
夜間に病院へ足を運び、あの不気味な部屋に戻った護は、静寂の中「償」と「再」という言葉を口にした。
その瞬間、何かが彼の背後に現れた。
恐る恐る振り返ると、そこには石のように冷たい顔の女性が立っていた。
彼女は護に向かい、静かに言った。
「償いの時が来た。あなたの運命を知っている。」
護は恐怖を感じたが、同時に彼女の存在が自分自身の心の一部であると気づいていた。
「私が何を償わなければならないのですか?」と問いかけると、彼女は暗い目で見つめながら答えた。
「二つの選択肢がある。一つは逃れ、もう一つは受け入れること。」
その言葉を聞いた護は、彼の心の内に秘めていた過去を思い出した。
かつて、幼い頃に友人を事故で失ったこと。
それが彼の心に大きな影を落とし、彼は無意識の内にその運命を受け入れられなかった。
この選択なしには、彼は自らの「身」を取り戻せないことを悟った。
護は深く息を吸い込み、心の底から叫ぶように言った。
「私は受け入れる!彼の思いを背負い、生きることを選ぶ!」その瞬間、女性の姿が消え、彼の心の奥に温かさが広がった。
その後、護は新たな自分としての再出発を果たし、彼の心の奥にはかつての痛みを抱えながらも、彼自身を許し、前に進む力が宿っていた。
あの日の廃墟が彼に何をもたらしたのかはわからないが、彼にとってそれは「身」と向き合うための大切な旅だったのだ。