「影の囚われ」

静かな山間の村には、古い木が立つ場所があった。
そこで小さな村の子供たちは遊び、木の影で様々な歌を歌った。
しかし、ある日突然、その木は村の人々にとって恐ろしい存在へと変わってしまった。

ある夏の日、村に住む青年、翔太は友人たちと共にその木の下で遊んでいた。
その木は大きくて古びており、まるで守護神のように村を見守っているかのようだった。
しかし、翔太は木の下で、不思議な現象を目の当たりにすることになった。
彼が木に触れた瞬間、耳をつんざくようなささやき声が聞こえ、その声に何かを訴えようとする木の影がゆらめいたのだ。

「気のせいだろう」と友人たちは笑ったが、翔太はその声に恐怖を感じた。
声は木の大きな幹の奥から聞こえてくるようだった。
「私を…自由にして…」その言葉が彼の心に刻まれた瞬間、彼は木から手を離した。

翔太はその後、何度も友人たちを誘ってその木の周りで遊び続けたが、常にその声が頭の中をかけ巡るようになった。
「絶対におかしい、木のせいだ」と思いながらも、仲間たちとの楽しさに心を惑わされていた。
しかし、ある夜、翔太は再びあの木の下に足を運んだ。

月明かりの中、木は異様な雰囲気を醸し出していた。
その時、翔太は一人の女の子が木の影から顔を出しているのに気付く。
彼女は白いドレスを着ていて、薄い金色の髪が月光に照らされて華やかに輝いていた。
その姿に心惹かれた翔太は、女の子に近づこうとした。

「私を助けて…」彼女は囁いたその瞬間、翔太の体は強い衝動に駆られた。
心臓が高鳴り、女の子の言葉に従わなければという思いが強くなった。
しかし、彼女の視線には悲しみと破壊的な力が宿っていることを感じ取った。
翔太はその目に引き寄せられ、何かに飲み込まれそうになった。

「ああ、私の力で破壊してみせる…」彼女の言葉は消え、静寂が訪れた。
だが、翔太は自分の手が自然と木の根元へ伸びていることに気づいた。
気が付くと、彼は木を切り倒そうとする自分の姿があった。
恐怖に駆られながらも、女の子の声が響く。
「そう、あなたも私と同じになるのよ…」

その時、翔太は一瞬で何が起こっているのか理解した。
彼女は木の精霊であり、村人たちが彼女の存在を忘れ去ったことへの復讐を遂げようとしていたのだ。
翔太は必死にその場から逃げようとしたが、その木の影が彼を捕らえ、次第に意識が薄れていった。

気がつくと、翔太は村の広場に立っていた。
周囲には仲間たちが集まっており、彼らは驚いた表情を浮かべていた。
「翔太!お前、何をしていたんだ?」彼の友人が尋ねる。
しかし、翔太は何も答えられずにいた。

それ以来、村では不思議なことが起こり続けた。
木は次第に枯れ、村の人々はその恐怖から木に近寄らなくなった。
しかし、翔太には何かが変わってしまったことを感じた。
彼は何度もその木の夢を見続け、忘れがたい声が耳に残っていた。

あの女の子の存在は、翔太の心の深いところに影を残したまま。
村の人々は木を忘れることができたが、翔太だけはその影に囚われ続けていた。
彼の心には、女の子の影と、木の恐怖が共存することになったのだった。

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