「響く声の橋」

ある小さな村に、古くから伝わる言い伝えがあった。
その村の近くに架かる「響き橋」と呼ばれる橋は、不思議な現象が起こることで知られていた。
橋の上を渡る人々は、時折、自分の名前を呼ばれる声や、誰かが近くにいるような気配を感じることがあるという。
また、特に新月の晩にその現象は顕著になると言われていた。

そんな夜、大学生の村田翔太は友人たちと共に、この橋の噂を確かめることに決めた。
彼らは心霊スポット巡りが好きで、特に怖い話には興味津々だったからだ。
新月の晩、村田と友人たちは橋のたもとに集まった。
薄暗い月明かりの中、彼らは興奮と少しの不安を持ちながら橋を渡ることにした。

「早く渡った方がいいよ、幽霊って新月が好きらしいから」という冗談交じりに言う友人に、村田は「そんなの信じるわけないだろ」と笑い飛ばした。
彼らは一緒に橋を渡り始めた。
橋を渡るにつれて、心臓の鼓動が速くなるのを感じたが、恐怖心を抱く暇もなく、全員は楽しんでいた。

しかし、橋の真ん中に差しかかったとき、村田は何かを耳にした。
それは確かに自分の名前を呼ぶ声だった。
「翔太、翔太」と、誰かが彼を呼んでいる。
驚いた村田は思わず立ち止まり、周りを見回した。
しかし、友人たちは彼の背後で何かを話し合っており、何事もないようだった。

「おい、何か聞こえたか?」村田は不安に駆られ、友人たちに尋ねた。
しかし、彼らは首を振って「何も聞こえない」と答えた。
「俺だけか…」そう思いながら、再び声が響いた。
「翔太…こっちに来て…」その声はより近く、よりはっきりと感じられた。

村田は不穏な気配を感じ、友人たちに急いで渡り切るよう促した。
だが、一歩踏み出した瞬間、彼の足元で新しい恐怖が現れた。
橋の下から水の流れの音が異様に響き、まるで何かが引き寄せられるような感じを受けた。
「急げ、早く行こう!」友人たちも焦りだし、全員が一斉に橋を渡り切った。

やがて橋を渡りきったところで、村田はふと周りを見回した。
そのとき、何かが気になり振り返ると、橋を見上げる一人の女の子が立っていた。
彼女の姿は、その瞬間、まだ若いというのにどこか哀しげで、どうしても見知らぬ感じがした。
村田は心に引っかかるものを感じながらも、すぐに目を逸らした。

「大丈夫だ、もう橋は渡ったんだから」と友人たちが笑いながら言ったが、村田の心にはまだ違和感が残っていた。
彼はその後も、何気なく永遠に響く声、その女の子のことが頭から離れなかった。

数日後、村田はネットで調べものをしていると、「響き橋」の legendを見つけた。
その中に、彼が見た女の子の話が載っているのを見つけた。
それは、新月の晩のみ姿を現す「間」と呼ばれる幽霊だった。
しかし、彼女の正体はただの幽霊ではなく、彼女がこの橋で何かを待ち続けているという悲劇を持つ存在だった。

村田は、彼女の姿がまるで彼を呼ぶように思えた理由を感じ取った。
彼は自身の中に潜む何かが彼女と共鳴していることを理解し、呆然とした。
次の新月の晩、彼は再び橋を訪れることを決意した。
彼は、真実を知るべく、どこか彼女との「間」に立ち入ることになるのだろう。
彼の心の中で、あの声は今も響いていた。

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