「求めの霊の囁き」

昔々、北海道の奥深い山々に囲まれた村があった。
この村は、世間から隔絶されており、現代の文明とは無縁の生活をしていた。
村人たちは穏やかで親切だったが、その一方で、忌まわしい言い伝えが代々受け継がれていた。
それは、「求められた者は逃れられない」という恐ろしいものであった。

ある日、村に新たな住人がやってきた。
その名は佐藤恵子。
恵子は大学を卒業し、自然豊かな環境で静かに過ごすことを望んで村に移り住んだ。
しかし、彼女はその村に潜む闇を知らなかった。

恵子は村の人々と親しくなり、特に一人の青年、山田あきらと仲良くなった。
彼は村の歴史や伝説をよく知っており、恵子に何度も村の昔話を語って聞かせた。
その中でも、彼が語ったのは「求めの霊」の話だった。

「求めの霊とは、かつて村に住んでいた女性の霊で、彼女は求められることに苦しみ続けているんだ。そのため、彼女に一度求められた者は、必ず彼女のもとに引き寄せられてしまう。求められるというのは、決して愛情のことだけではなく、執拗な思いを持った人の心を満たそうとするものなんだ。」

恵子はその話を聞き、不気味ながらも興味をそそられた。
しかし、彼女はそれを単なる伝説だと思い込み、特に気にしなかった。
日々の仕事や村人との交流の中で、彼女は幸せな時間を過ごしていた。

しかし、ある晩、恵子は不思議な夢を見た。
その夢の中で、彼女は薄暗い森の中に立っていた。
そして、ふと背後から声が聞こえた。
「助けて…私を探して…」その声はどこか懐かしく、しかし同時に痛々しい響きを持っていた。
恵子は恐怖に駆られながらも、声の方へと足を進めた。

夢から目覚めた恵子は、心の奥に不安を抱えつつも、仕事へと向かう日常を続けた。
しかし、彼女の心には常にあの声が残っていた。
次第に、彼女は村の人々が「求めの霊」を避ける様子を目にするようになった。
特に村の元気な男たちは、何かに怯えるように目を合わせようとしなかった。

ある日、恵子は再び夢の中であの声を聞く。
「ここに戻ってきて…私を見つけて…」その声は段々と迫ってきて、彼女のり。

恵子は無意識のうちに、夢の中の森へと足を運び、霊を求めるようになっていた。
そして、彼女はついに、再びあの声を辿ることを決意した。
翌晩、彼女は山田あきらにその夢のことを話した。

「あきら、今夜、私はあの森に行くつもりだ。どうしても、その声が気になるの。」

山田は驚いて恵子を止めようとした。
「恵子、それは危険だ。絶対にいってはいけない!」しかし、恵子は決心を固めていた。
彼女はこの不思議な声の正体を確かめるため、あきらを振り切るようにその夜、森へと向かう。

薄暗い森の中で、恵子はまたあの声を聞いた。
「私を求めて…私を必要として…」その声に導かれながら、彼女は奥深くへ進み、そしてとうとう一つの古い神社にたどり着いた。
ここが求めの霊の隠れ家だと悟った瞬間、彼女の心は切実な思いに満ち溢れた。

しかし、周囲は急に静まりかえり、冷たい風が彼女の背中を撫でた。
その時、恵子の周りに霊が現れた。
彼女は美しい女性の姿をしていたが、その目には悲しみが宿っていた。

「お願い、私を見つけて…私を求めて…」

恵子は恐怖を感じながらも、その女性に引き寄せられた。
彼女は思わず言葉を発していた。
「私はあなたを求めているわ、でも…」

その瞬間、恵子は強い力に引き寄せられ、身体が動かなくなった。
彼女の心の深い部分から願った思いが、求めの霊にひも解かれてしまったのだ。
恵子はかつての村の女性のように、求められた者としてその場に留まることになった。

村に戻ったあきらは、恵子の姿を見つけられなかった。
「彼女は今、どこに…」との思いを抱えたまま、求まれたものの不安を思い知らされるのだった。
村には彼女の存在がもうなく、その声だけが、次の求める者を待ち続けていた。

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