止の町には、昔から語り継がれる不穏な噂があった。
この町には、決して話してはいけない「停」という言葉があった。
そして、その言葉が口にされると、町のどこかで奇妙な現象が起きると言われていた。
大学生の健太は、町の怪談に興味を持ち、友人たちと一緒に止を訪れることに決めた。
彼は自らの体験を通じて、真実を確かめようと考えていた。
友人たちと一緒に、町の中心にある古い神社へと向かうことにした。
神社はひっそりと静まり返っており、月明かりがほのかに照らしていた。
「この神社には、停という言葉を口にすると何かが起こるって。本当にそんなことあるのか?」友人の幸子が言った。
「ただの迷信だろう。何も起こらないよ。」健太は笑いながら答えたが、心の奥では少しの不安を感じていた。
神社の境内に入ると、友人たちは周囲を探索し始めた。
健太は一人、神社の本殿の前に立ち、周囲を眺めた。
その瞬間、彼の目に何かが映った。
それは、本殿の中から覗く二つの目だった。
いつまでも彼を見つめるその目は、まるで彼の心の奥底を探っているかのようだった。
恐怖を感じた健太は、すぐに後ろを振り返るが、何も見えない。
友人たちに呼びかけても、彼らは他の場所にいるため返事が来ない。
彼は再び本殿に目を戻した。
「停」と口にすることは、果たしてただの噂に過ぎないのか。
それとも、何か本当に恐ろしい存在がいるのだろうか。
彼の思考はどんどん深まっていく。
そんな彼の心を見透かすように、あの目はさらにじっと彼を見つめ続ける。
何かに引き寄せられたように、健太は一歩踏み出した。
その瞬間、本殿の扉が微かに開く。
中の暗闇から、誰かの声が聞こえた。
「入って来い。」それは優しいが、どこか不気味なトーンだった。
思わず一歩、そしてまた一歩と、彼は進んでいく。
本殿に足を踏み入れると、そこには何もなかった。
ただの空間、暗闇が広がっているだけの場所。
しかし、ふと気づくと、彼の体が急に重たく感じ始めた。
まるで、どこからか圧迫されているような感覚に襲われる。
彼は目を閉じ、心のどこかで何かが始まる音が聞こえた。
再び目を開くと、彼の周囲に誰かの影が見えた。
影は次第に形を成し、目の前に立つ人の姿が見えてきた。
その人の目は先ほどの目と同じだった。
その顔は青白く、まるで生気を失ったかのようだった。
「私は、停の影に囚われた者だ。」その人は静かに言った。
「お前も、ここに留まる運命なのだ。」健太は恐怖で身を震わせながらも、その人から目を離せなかった。
彼は、自分の目がその存在の中に引き込まれていくのを感じた。
「目を閉じてはいけない。お前の体のすべてを感じなければならない。それが停の者達との約束だ。」不思議な声が耳元で囁かれる。
健太は頭を抱え、なんとか抵抗しようとした。
しかし、彼の体は動かず、目だけがその人を見つめ続ける。
友人たちが心配して探し回っていたときには、もう手遅れだった。
健太は完全にその影に取り込まれ、その目は彼の心を支配し続けた。
町の人々はその後、彼の姿を見かけることはなかったという。
彼は「停」の中で、永遠にその目を見続ける運命に取り込まれたのだった。