ある薄暗い路地の奥に、長い間人々が近寄らない場所があった。
そこには、かつて「験」と呼ばれる若い女性が住んでいた。
彼女は特別な力を持ち、人々の願いを叶える代わりに、何か大切なものを奪うと言われていた。
その噂が広まるにつれ、村の人々は彼女を恐れ、次第にその路を避けるようになった。
ある日、村に住む青年、健二は、根拠のない噂が嫌いだった。
彼は困っている人々を助けたいという思いから、ある決意を抱いて路に足を踏み入れた。
「私は自分の目で確かめる」と決意した健二は、深い闇の中へと進んでいった。
路の両側には古びた家が並び、時折不気味な物音が聞こえてくる。
健二は心臓が高鳴るのを感じながら、足早に通り抜けていった。
その時、ふと目の前に影が映った。
振り返ると、そこには験が立っていた。
彼女は白い着物を着て、冷たい目で健二を見つめていた。
「あなたがこの場所に来た理由は何ですか?」と彼女は静かに問いかける。
それに対して健二は言った。
「あなたのことを知りたくて来ました。噂に惑わされず、真実を確かめたいのです。」
験は微笑んだ。
「私の力を見せましょう。あなたの願いを一つ叶えてあげます。その代わり、あなたの何かをいただくことになりますがね。」
強気な健二だったが、内心は恐れていた。
彼はしばらく考えた末に、「それでは、今の村の平和を願います」と言った。
それを聞いた験は、満足そうに頷いた。
「だったら、その願いを実現させるために、あなたの心の奥底にある恐れを私に差し出してください。」
健二は迷ったが、挑戦することを決意した。
「私は恐れなんか持っていない。立ち向かう覚悟がある。」
その瞬間、験の周りが暗くなり、周囲の風景が変わり始めた。
健二は、自分が今でも恐れている亡霊の姿が映し出されるのを見た。
それは、彼が過去に受けたトラウマや、友人を事故で失った時の辛い思い出だった。
「見て、あなたの中にある恐れ。善悪を問わず、根深いものですね。これがあなたの敵となるでしょう。」験は冷たく言った。
健二は自らの心の映し出しに向き合うことに決めた。
亡霊たちは彼を囲み、彼の弱さを指摘する。
「お前は本当に強いのか?過去を忘れたフリをしているだけだ」と囁いてくる。
彼はその声に苦しみながらも、反発した。
「これは過去のことだ。もうお前たちに振り回させない。」
験は彼の言葉に興味を持った様子だった。
「それなら、はっきりさせてご覧なさい。」彼女はその瞬間、周囲を一瞬で消し去り、再び路に二人だけが残された。
「あなたは私の力を借りる必要がない。自分の力で真実を掴むことができると証明したのですね。」験は穏やかな目で彼に微笑んだ。
そして、彼の心の奥に潜む恐れを無理に奪うことはなくなった。
その瞬間、村の平和が戻ったのだ。
健二の願いが実現することを願い、験は少しだけ彼に優しさを見せて教えてくれた。
「恐れはなくならない。でもそれを乗り越えることができれば、敵ではなくなる。」
健二はその言葉を胸に、この路を後にした。
その後、村は以前よりも安らかに見え、彼は日々恐れを乗り越えながら生きることを学んだ。
験との出会いは彼にとって、かけがえのない教訓となったのだった。