「未の光、心の迷い」

その町には、いつも不思議な光が現れる場所があった。
約二年前、友人と訪れたときに見たというその光は、特に魅力的な光景ではなかったが、なぜか誰もが見たがるものとなっていた。
人々はそれを「未の光」と呼び、神秘的な伝説を語り始めた。

一人の女子大学生、佐藤直美は、その噂に心を惹かれていた。
彼女はいつも忙しい日常の中で疲れ切っていたので、友人たちから聞いた「未の光」を見つけることが、心のどこかでの憧れに変わっていった。
そして、直美はその光を自分の目で確かめるために夜中の静けさの中、ひとりで町の外れへ向かった。

町を出て、徐々に暗い森に足を踏み入れると、やがて月明かりだけが照らす道が彼女の前に現れた。
しばらく進んでいくと、その光はふいに目に飛び込んできた。

その光は、空に向かってまっすぐに伸びているもので、翼のように周囲を包みこむような美しさがあった。
しかし、近づけば近づくほど、直美の心には不安が広がった。
この光の正体は何なのか。
彼女は惹かれながらも、同時にどこか恐れを抱いていた。

「引き寄せられているような感覚…」直美は確かに自分の心がその光に吸い寄せられているのを感じた。
未の光は、まるで彼女の内側を照らしているかのように感じられた。
直美はその場に立ち尽くし、心の中で迷い続けた。
生きることの意味や心に抱えるさまざまな未練が、まるでその光の中に反映されているようだった。

ふと、彼女は気づいた。
人の思いは、どれほど生きた時間を経ても消えないし、自分自身からも逃れられない。
直美は、悲しみや後悔、愛おしさ、さまざまな感情がこの光に吸い寄せられているのかと理解した。
未の光は、人々の心の深淵を映し出しているのだ。

すると、光の中から一人の少女が現れた。
彼女は透き通るような姿をしていて、青白い光をまとっていた。
直美はその少女を見つめ、思わず息を呑んだ。
少女の目は悲しみに満ち、その表情はどこか寂しげだった。

「私は、あなたの心の中の未練を見に来たの」と少女は静かに語りかけた。

直美は返答することができなかった。
この少女は、自分の隠された思いを知っているかのように思えた。
心の奥に秘めていた、忘れたくても忘れられない過去の出来事。
親友との別れ、恋人との喪失、そして大切な人たちに向けることのできなかった思い。
それらが全て、光の中に渦巻いているように感じた。

「私の声が、あなたを呼んでいる。心の光を見つけなさい。」少女はさらに続けた。

直美は涙を流しながら、心の中に渦巻く感情と向き合った。
過去の悲しみや痛みが一つまた一つと甦ってくる。
彼女は一人で踏み出してみたものの、それを乗り越えることができず、未練として心に留めていた。

「もう、しがみつかなくても大丈夫よ」と少女が続ける。
直美はそっと目を閉じ、その言葉に応えるように心の奥にある光を探ろうとした。
「私は生きている。過去は消えないけれど、それに縛られていてはいけない。」

その瞬間、直美の心に明るい光が広がった。
彼女は少女の姿を見つめ、そしてひとつの決意を固めた。
「私は、過去を抱えながらも、未来を生きる。あなたを忘れないけれど、それが私の人生のすべてではない。」

直美がそう思った時、光が彼女の周囲を包み込み、少女はほのかに微笑みながら消えていった。
直美は解放感を感じ、涙を流した。
その瞬間、彼女の中に新たな光が宿った。
未の光はただの幻影ではなく、彼女に生きる力を与えてくれる存在であったのだ。

その夜、直美は光が語りかけたように心の中にある思いを受け入れ、未来へ歩み始めることを決意した。
彼女の中で光は、未練から解放された希望の象徴に変わっていった。

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