「光を求める犬の影」

ある街の一角に、長い間、廃墟となった古い家が立っていた。
その家は人々にとって忌まわしい場所として恐れられ、近寄る者はいなかった。
周囲には雑草が茂り、風によって窓がきしむ音が響くこともあった。
そんな場所に、無邪気な子供たちが一匹の犬を連れてやってきた。
犬の名は、マル。
元気いっぱいの柴犬だった。

子供たちは、マルを連れて家の前で遊び始めた。
「大丈夫かな、あの家には入ってはいけないって聞いたけど…」と一人の子供が不安を口にした。
しかし、他の子供たちは興味津々で、マルもその雰囲気に煽られて廃墟の近くまで駆け寄った。
そこで彼らは、廃墟の一角に現れた不思議な光を見つけた。

「見て、あの光は何だろう?」子供の一人が言った。
光は薄青く、まるで夜空の星のようにキラキラと輝いていた。
マルはその光に興味を示し、思わず鼻を近づけた。
瞬間、光が一際強くなり、マルはまるで何かに引き寄せられるように、一人でその光の方へと進んでいった。

不安を抱えた子供たちはマルを呼び止めたが、マルは止まらず、光の中に入っていった。
すると、彼の周囲がまるで別世界のようになり、街の喧騒が遠くに感じられた。
その瞬間、マルの目の前に現れたのは、透明な人影だった。
人影は優しい微笑みを浮かべながら、マルに手を差し伸べてきた。

「私はここに囚われた魂です。私の助けを求めてきたのですね。」

マルはその言葉に戸惑いながらも、直感でその存在が何かを求めていることを感じ取った。
その魂はかつて、この街に住んでいた人間であり、何らかの理由でこの廃墟に留まっていた。
彼女は一つの願いを持っていた。
それは、自分がこの世に残した愛の証を取り戻すことだった。

その時、子供たちが心配になり、マルを呼び続けていた。
「マル、戻ってきて!」彼らの声が、廃墟の静けさを打ち破った。

魂は悲しげにマルを見つめた。
「あなたの仲間が心配していますね。しかし、私にはあなたの助けが必要です。」

マルは一瞬躊躇したが、子供たちと一緒にいることが何よりも大切であることに気がついた。
彼は微かに後ろを振り返り、呼びかける仲間たちの姿を見た。
無邪気だった子供たちは、不安と恐れが混ざった表情を浮かべている。
その姿を見て、マルは勇気を持って前に進ませることを決意する。

「ごめんなさい。でも、私は友達のもとに戻らなきゃいけない。」

魂はマルの言葉を理解したようで、小さく頷いた。
しかし、彼女は悲しげにこう言った。
「私はずっと待っている。いつかあなたが私の願いを聞いてくれる日を、私は夢見続けます。」

不思議な力がマルを包み込み、彼は光の中から解放されるように身が軽くなった。
マルは一目散に子供たちの元へ戻り、彼らは安心して犬を抱き寄せた。

その日以来、マルはいつも廃墟の近くに行きたがることはなくなったが、彼の中には何か特別な記憶が刻まれていた。
子供たちもその話を心に留め、廃墟には近づかないようになった。
だが、時折、街の片隅でひっそりと揺れる光を目にしたとき、彼らは今もあの魂の存在を感じ取っていた。
マルはその光を通じて、今日も誰かを見守っているのかもしれない。

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