「封印された想い」

夜も深く、静けさの中に月明かりが差し込むと、道は幻想的な雰囲気に包まれていた。
そんな中、健太と美咲の二人は、山を越えるためにその道を進んでいた。
彼らは大学の友人で、心霊スポットとして有名な場所へ肝試しに行くことに決めたのだ。

「本当にそんなことをする必要があるのか?」健太は不安を隠し切れずに口を開いた。

「大丈夫よ、面白そうじゃない。ちょっとした冒険気分で行こうよ。」美咲は元気よく応じる。
彼女のその無邪気な笑顔が、健太を少しだけ勇気付けた。

道は次第に狭くなり、周囲の木々が暗闇の中に不気味な影を落としていく。
二人は、何度も足元を気にしながら歩を進めた。
そして、道の端に立つ古びた看板が目に入った。
「この先、事故多発地帯」と書かれていた。

不安の念が彼の心を締め付ける。
だが、美咲はその看板を軽く笑い飛ばした。
「そういう噂は大抵、思い込みよ。自分たちの気持ち次第で何とかなるわ。」

進むこと数十分。
道の奥に、ぽっかりと開けた広場が現れた。
そこには古い神社が立っており、何かが彼らを引き寄せるような気がした。

「ここがその肝試しの場所?」健太が尋ねる。

「はい、そうみたい。」美咲は明るく答え、そのまま神社の扉を押し開けた。
すると、中は薄暗く、古い神像が出迎えた。

彼らはまるで何かの儀式が行われているかのように、静かにその場に立ち尽くした。
しばらくして、健太が「帰ろう」と呟くと、ふと彼の目の前に人影が現れた。
白い着物を着た女性だった。

「私を探しているのか?」その声は美しさと哀しみが混じっていた。

「な、何があったんですか?」健太は驚き、声を震わせた。

「私はここに封印された者。私の想いが放たれぬ限り、この場から離れられない。」女性の目は悲しみで潤んでいた。

美咲がその女性に近づき、「何か私たちが手伝えることはありますか?」と尋ねた。
女性は微笑み、そして語り始めた。
「私の最期の願いは、私を解放すること。だがそれには、私の記憶を知る必要がある。」

その瞬間、健太は女性の周囲に漂う異様な気配に気付いた。
何かが彼を害しようとしている。
彼は恐れに駆られ、何とかその場から逃げようとした。
しかし、美咲は動かなかった。
「私、何かを感じるの。」

青年は彼女の手を引いて逃げ出したが、その時、彼女の目に涙がこぼれた。
「お願い、私はあなたに解放されたいの!」その声が風に乗って健太の耳に残り、彼は思わず立ち止まった。

「無理だ!まだ怖い!」と健太は叫んだが、美咲は彼の手を強く握り、「これが私たちの運命だと思えてしまうの。」と静かに目を閉じた。

女性はその瞬間、光を放ち、美咲に近づいてきたかのように見えた。
「あなたが私を解放するのか?」その声は、美咲の心に直接響いた。

美咲は決意し、強い気持ちで女性に向き合った。
「分かりました、私はあなたの想いを受け入れます。」すると、不思議なことに広場が輝き始めた。
女性の微笑みが美咲に力を与え、彼女は一歩、さらに一歩と近づいていった。

光が集まり、二人を包み込むと、突如、冷たい風が吹き抜けた。
健太は目を閉じ、強烈な寒気を感じながらも、なぜか心が軽くなるのを感じた。

覚醒すると、二人は広場の真ん中に立ち、美咲は涙を流しながらも安堵の表情を浮かべていた。
そして、女性の姿は消え、彼女の想いが既に放たれたのだと理解した。

「私たち、成功したのかな。」健太は震える声で言った。

「はい。彼女はきっと、成仏できたはずです。」美咲は微笑み、二人は神社を後にした。
夜の道は依然として静かではあったが、二人の心には温かい光が宿っていた。

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