ある静かな村には、長い間人々に語り継がれてきた不思議な伝説があった。
それは、月の明るい夜にしか現れないという「りんか」という存在にまつわるものだった。
村人たちは、りんかが現れることで、自らの命を犠牲にすることになる運命を避けるため、決してその存在を忘れてはならないと口伝えで伝えてきた。
主人公の佐藤浩二は、都会からこの村に引っ越してきたばかりの若者だった。
彼は自然の中での生活を求めており、村の人々が抱える恐怖には無関心だった。
早速、村の歴史や伝説に興味を持ち、りんかの話を聞くことにした。
周囲の人々は、彼を心配そうに見つめながら、彼に警告をした。
「絶対に好奇心を持たない方がいい」と。
ある晩、浩二は月明かりが特に美しい夜に、友人たちと一緒に神社を訪れた。
そこでは、りんかの伝説について集まった仲間と怖い話をすることになった。
しかし、浩二は次第に好奇心が膨らみ、仲間とは別れ、森の奥へと足を運んだ。
彼は心の奥で、りんかの存在について確かめなければならないと感じていた。
森の奥へ進むにつれ、彼は次第に不安を覚え始めた。
静まり返った空気の中、月明かりが木の間から差し込み、まるで誰かが見ているかのような感覚に襲われた。
風が吹くと共に、何かが彼の背後を通り過ぎたような音がした。
振り返ると、誰もいない。
「やっぱり、伝説なんて信じる必要はない」と自分を鼓舞しながら、彼はさらに一歩を踏み出した。
その瞬間、彼は何かが違うことを感じた。
まるで、何かが彼に向かって近づいているかのような気配。
思わず足を止めると、目の前に一人の女の子が立っていた。
彼女の名前は、加藤美咲。
髪は長く、月明かりに照らされて輝いている。
「あなた、りんかを探しているの？」美咲は柔らかな声音で尋ねた。
浩二は一瞬驚いたが、その冷静さを取り戻し、彼女に話しかけた。
「ええ、そうです。りんかが本当にいるのか確かめたくて。」
美咲は微笑んで答えた。
「彼女は、あなたのような人を待っている。失ってしまった何かを取り戻すために。」
浩二は不安を感じながらも、更に美咲に近づいた。
「何を失うって？」
彼女は真剣な表情を浮かべながら、静かに言った。
「りんかは、犠牲を求める存在。あなたが何かを求めると、何か大切なものが消えてしまうかもしれない。」
浩二はその言葉に心がざわついた。
「でも、それが真実なら、なぜ村人たちはそれを隠そうとするのか？」
美咲は短く考え込んだ後、彼に向き直った。
「彼らは恐れているの。りんかの真実に気づいた者は、次第に心を奪われ、自らの命を運命に委ねなければならなくなるから。」
その言葉を聞いた瞬間、浩二は恐れを感じた。
彼はその場から逃げたくなったが、足が動かなかった。
美咲は続ける。
「月が明るいとき、りんかは目を覚ます。人々の信じた一つの存在が、現実の運命を決めるの。」
突然、冷たい風が彼の頬を撫で、森がざわめき始めた。
木々がざわめき、彼の意識が徐々に混乱していく。
浩二は自分がどこにいるのか分からなくなり、心に不安が広がる。
「彼女の目を見るな」と思いながらも、彼は美咲の目を見つめてしまった。
その瞬間、彼の脳裏に鮮やかな光景が広がった。
彼は幼い頃の思い出、失われた友との笑顔、そして何よりも大切だった家族との時間を思い出した。
それらはすぐに消えかけ、彼の心から新たな恐怖が湧き上がる。
「私が消えてしまう…」浩二は絶望の声を上げた。
すると、美咲は彼に向かって伸ばした手を引っ込め、冷たい微笑みを浮かべた。
「そこで目を背けてはいけないの、浩二。選択肢は一つしかない。あなたがこの村を守るためには、何かを犠牲にするしかないんだ。」
彼の心に重い決断がのしかかった。
果たしてこのままりんかを信じ、消えてしまうのか、それとも恐怖を捨て、自らの未来を選ぶのか。
夜の静けさの中、浩二は心の中で葛藤し続けた。
