佐藤健一は、新しい学校に転校してきたばかりだった。
彼は静かな性格で目立たない生徒だったが、特に嫌われることもなく、地味に日々を過ごしていた。
そんなある日のこと、クラスメートの中村美咲が話しかけてきた。
「ねえ、健一。夜の図書館に行くの、興味ある?」
美咲の提案に、健一は一瞬ためらった。
夜の図書館という言葉には不気味さを感じたが、彼女が興味を持っているのなら行ってみる価値があるかもしれないと思い、約束をした。
数日後の土曜日。
健一と美咲は、午後8時に図書館で待ち合わせることになった。
薄暗い廊下を通り、静まり返った図書館に足を踏み入れると、冷たい空気が彼らを包み込んだ。
電灯の明かりは弱々しく、書棚の影に不気味なものが潜んでいるような錯覚に陥った。
「ここには、面白い本がたくさんあるんだよ」と美咲が言い、彼女は特定の棚に向かって歩き出した。
健一は後を追い、ライトの明かりで、本のタイトルを確認したが、目に見えるものはどれも普通の本だった。
そのうち、健一は一冊の古びた本に目を留めた。
「執念の記」というタイトルだった。
その本は、表紙に奇妙な模様が施されているように見え、彼は何か引き寄せられるように手に取った。
「それ、変な本だよ」と美咲が言った。
「開かない方がいいって、先輩から聞いたことがある。」
好奇心が勝ってしまった健一は、無視して本を開いてしまう。
内容は、人間の執念に関する体験談が綴られており、ページをめくるごとにどんどんその内容が恐ろしいものになっていく。
「死者の声が聞こえる」「執念によって引き寄せられた者たちの悲劇」といった記述が目を引いた。
そして、あるページにたどり着くと、急に電気がフリッカーフリッカーと点滅し始めた。
その瞬間、図書館の中が寒気で満たされ、まるで誰かが健一の後ろにいるかのような感覚に襲われた。
しかし、振り返っても誰もいなかった。
美咲の顔が青ざめた。
「おい、健一、その本を閉じて…!」
その時、健一は心に不安が広がるのを感じた。
次の瞬間、図書館の電気がすべて消え、真っ暗な闇に包まれた。
二人は驚いて叫んでしまった。
何かが起きている。
まるで電気が消えたその瞬間、健一の心に浮かんだ本の内容が現実になってしまったかのようだった。
すると、耳元に誰かのささやきが聞こえた。
「私の記憶を受け継いでほしい…」
不気味な声に背筋が凍った。
美咲は恐れに目を丸くし、健一を引っ張りながら出口に向かおうとした。
しかし、図書館の扉は開かず、まるで何かに封じ込められているかのように感じた。
二人は必死になって叫んだが、誰もいない。
電気が再び点灯し、正常に戻った時、目の前に現れたのは、空虚な瞳を持つ人数人の影だった。
彼らはじっと健一と美咲を見つめていた。
影たちは彼らのすぐ近くに寄ってきた。
「私たちは忘れられた存在…執念に囚われた者たち…」
その言葉が響くとともに、影たちは彼らを引き寄せようとする。
美咲が悲鳴を上げ、健一は恐怖で呆然とした。
その瞬間、彼はすべてを思い出した。
彼はこの場所を退ける力がないこと、そしてその本の内容がどれほど恐れを引き起こすかを実感した。
彼は急いで本を閉じ、抗うようにして逃げ出そうとした。
すると、影たちが一斉に健一に向かって伸びた。
「忘れ去られた者よ、逃げることはできぬ!」
美咲が手を取って引っ張り、二人は全力で図書館の出口に向かって走った。
しかし、影たちの声が頭の中で響き続けていた。
「執念は消えぬ…受け継がれるのだ…」
彼らはようやく出口にたどり着き、勢いよく扉を押し開け、外に飛び出した。
その瞬間、影たちの声が背後で消えた。
しかし、二人の心には、一生消えない恐怖が残された。
夜の図書館に潜む執念が、今もなお彼らの記憶に刻まれているのだった。