「高嶺の霊と秋風の約束」

青い空にそびえる高い山々、その山裾にひっそりと佇む古びた神社があった。
この神社は、長い間人々から忘れ去られ、ただ静かに時を刻んでいた。
しかし、そこには異界の霊が宿っているという噂が立ち、近寄るものはいなかった。

ある秋の日、若い女性の美咲は、友人からの勧めでこの神社を訪れることにした。
都会の喧騒から離れ、自分を癒したいと思った彼女は、遠く高い山々の息吹を感じることで、心の平安を得ようとしたのだ。
美咲は神社の入り口にある鳥居をくぐり、静かな境内に足を踏み入れた。

神社の境内は、色づいた楓の葉が秋の風に舞い、どこか神秘的な雰囲気を醸し出していた。
彼女は静かに手を合わせ、心の中で願い事を唱えた。
その瞬間、周囲の空気が変わり、背後から冷たい風が吹き抜けていった。

美咲はふと振り返ると、そこには薄暗い影が立っていた。
彼女の心臓は不安で高鳴り、思わず後ずさりした。
その影は、徐々に形を成していき、品のある和服を着た女性の霊だった。
彼女の顔には悲しみが漂い、目は遥か彼方を見つめているようだった。

「汝が私のもとへ来るとは…」彼女は静かに囁いた。
その声は耳の奥に響き、どこか懐かしさを覚えさせた。

美咲は何も答えられなかったが、その霊の存在に引き寄せられるように、一歩踏み出した。
霊は微笑み、その手が空を指差した。
「ここは亡き者の世界…あなたが癒しを求めるなら、私がお手伝いしましょう。」

美咲は一瞬躊躇したものの、心の奥深くにある癒しの願いが彼女を進ませた。
霊は柔らかい光のように彼女の手を引き、山々の間へと導いた。
二人の間には、言葉を超えた絆が生まれていた。

霊と美咲は、山を登っていった。
途中で出会った木々や岩々は、まるで二人を祝福するかのように優しい顔をした。
それでも、美咲の心の中には疑念が住み着いていた。
「この人は何者なのか? 何を求めているのだろう…」彼女はその思いを深く隠し、自分の願いに執着した。

やがて山頂にたどり着くと、彼女は眼前に広がる美しい景色を見つめた。
そこには無限に広がる青空と、遥か彼方に見える雲海があった。
美咲は感動のあまり、涙を流した。
心の中で、神社での願いが少しずつ叶ってきていると感じた。

だが、霊はその様子を静かに見守りながら、言葉を発した。
「この景色は美しい。しかし、あなたはまだ本来の自分を見出せていない…」その言葉は、少しずつ美咲の内面に染み込んでいく。
彼女は自分を見つめ直さなければならなかった。
何かが足りないのだ。

その瞬間、霊の姿に変化が起きた。
彼女の背後には、薄い雲のような光が立ち現れ、美咲を包み込んだ。
不思議な温もりが彼女を癒した。
その瞬間、自らの抱えていた痛みが洗い流され、彼女は霊の真の意図に気づいた。
霊は彼女を導くことで、過去の悲しみを解き放とうとしていたのだ。

美咲は霊に感謝の言葉を捧げ、心から微笑んだ。
「ありがとう、私は本当に癒されました。」霊は彼女の言葉に微笑み返し、徐々に姿を消していった。
「また会える日を待っています…」その囁きが、美咲の心の奥にしっかりと残った。

心に残る温もりを感じながら、美咲はゆっくりと神社の道を辿って下山していった。
彼女はもう、影が追いかけてくることはないと確信していた。
高い山々は、今や彼女にとって癒しの場所として、心の財産となったのだった。

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