「霧の向こうに潜む病」

公は、大学院生として忙しい日々を送っていた。
研究のストレスや生活の不規則さから、次第に心身の調子を崩していった。
ある晩、体調が悪化し、突然の吐き気に襲われ、彼は病院を訪れた。
診察の結果、「急性胃炎」と診断されたが、医師はその次の言葉で彼を困惑させた。

「この病、ただの体調不良ではないかもしれませんね。特に、ここ最近のあなたの精神的な状態に心配があります。」公は不安を感じたが、驚くべきことに治療の前に、医師から「念のため、家に帰ってリラックスしてみてください」と言われただけだった。
彼は素直に従った。

帰宅した夜、公は妙な霧が立ち込める道を通った。
いつもは賑わっている通りも、その日は静寂に包まれていた。
霧は濃く、まるで彼を中心に世界が消えていくかのようだった。
不安な気持ちを抱えつつ、公は急いで自宅へと足を進めた。

その晩、彼は悪夢に悩まされた。
周囲が闇に包まれた中、先ほどの病院の白いベッドが彼の前に現れた。
見覚えのある医師が、無表情で彼の方を見つめ「あなたの心を見せてください」と告げ、彼は抵抗することなく意識が引き込まれていくのを感じた。

目が覚めた時、公は心の動揺を和らげるためにコーヒーを淹れようとしたが、何かが変だと気づいた。
リビングの壁に、大きなひびが入り、まるで彼の心の内側からの叫びが表れたかのようだった。
気持ちが落ち着かないまま、彼は再度病院へ向かうことに決めた。

再び病院に着くと、公は何かが違っているのを感じた。
霧の影響なのか、異様な静けさが漂っていた。
診察室に入ると、医師は彼を見かけるなり、「あなた、何かを抱えていませんか?」と尋ねた。
公は困惑しながらも、「どういう意味ですか?」と返した。
しかし、彼の心の奥底に秘めた争いが、次第に表面化してきた。

この病の背後には、彼が心に秘めた嫉妬や劣等感、そして周囲との競争があった。
公はそうした感情と戦っていたが、いつもそこに彼自身の影が付きまとい、彼を苦しめていた。
医師はそのことを見抜いていたのだ。
公は次第に自分の心が病に侵されていることを理解し始めた。

数日後、公は再度の通院を決意し、霧の濃い道を歩いた。
その日も静かだったが、公の心には小さな勇気が芽生えつつあった。
彼は自身の心の内にある争いと向き合うため、自分を受け入れる決心をした。

「この病は、私自身を見つめ直すための試練なんだ」と、何度も自分に言い聞かせた。
霧の中で道を選ぶことで、彼は自身の苦しみが消えるものではないが、少しでもその重荷を軽くする方法を見つけられるかもしれなかった。

病との戦い、心の葛藤は続く。
しかし、公は理解した。
霧の中に潜む病は、心が生み出した産物であり、向き合ってこそ克服できることを。
そして、彼は再び立ち上がり、新たな道を進む準備を整えていった。

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