春が訪れたある日のこと、佐藤健二は友人たちと一緒にキャンプに出かけることを決めた。
目的は、友人の一人が紹介してくれた秘密の森。
「ここには呪われた場所がある」と聞かされていたものの、若い彼らはそれをあまり真剣には受け取っていなかった。
もちろん、その不気味さも相まって、一戦のバカ騒ぎが期待できると、健二はウキウキしながら車を走らせた。
夕方、森に到着した彼らは、深い木々の中でテントを張り、火を囲んで楽しい時間を過ごした。
陽が沈むにつれ、周囲に広がる静寂。
そして、焚き火の揺らめく光が森を薄暗く照らす。
友人たちは、恐ろしい話題を持ち出した。
「この森の奥には、呪われた神社があるんだって。そこに行ったら、何かに見られてる気がするって…」
その言葉を聞いて健二は不安を覚えたが、今さら帰るわけにもいかず、彼はその場の雰囲気を楽しむことにした。
彼らの笑い声が夜の静けさの中で響いていたが、次第にそれは緊張感を生む言葉となり、彼自身の心にも不安が広がる。
結局、彼らはその晩、幽霊話や恐怖体験を語り合いながら、いつしか眠りに落ちていった。
しかし、真夜中に健二は突然目を覚ました。
辺りは静まり返り、焚き火の音からも小さな音すら聞こえない。
彼は不安に駆られながら、周囲を見回した。
その時、ふと何かが動いたような気がして、目を凝らす。
暗闇の中で、木々の影の中に人影が見えた。
その影はすぐに静かに消えてしまい、彼は自分の心臓の鼓動を間近に感じた。
「気のせいだろう」と自分に言い聞かせたが、心の中で恐れが育っていく。
次第に眠ることができず、彼は友人たちの寝息を確かめながら、再び視線を森の奥へと向けた。
そして、彼は恐ろしいことに気づく。
それは、この場所の空気が、いつもとはどこか違うと感じること。
少しずつ、何かが迫ってくるような、不気味な感覚が彼を包んでいた。
翌朝、健二は仲間たちに昨晩のことを話そうとしたが、みんなは眠そうな顔をしていて、興味を示さなかった。
代わりに、友人の一人が「近くに神社があるらしいから、行こうぜ」と提案した。
怯えた気持ちを押し殺し、健二は友人たちに従った。
彼らは森の奥にある神社を目指し、薄暗い道を進んだ。
不気味な静けさに包まれたその場所にたどり着くと、神社は古びていて、まるで忘れ去られたように見えた。
しかし、異様な気配が漂っていた。
神社の中には、お札や人形が無造作に置かれていて、その光景に健二の心はさらに不安でいっぱいになった。
無意識のうちに、彼は「ここに来てはいけない」と言っていた。
友人たちは彼に微笑みながら、そうした信じ難いことを受け入れる様子だった。
しかし、健二はその時、背中に冷たい視線を感じた。
これまで何も感じなかった友人たちが、何かに取り憑かれたように、次第に無表情になっていくのを見て、彼は恐怖が心の奥底に振り返ってきた。
「帰ろう」と叫んだ瞬間、彼の口から逃げ出した声は、静寂な森の中で深く響いた。
その瞬間、友人たちは無言で彼を見つめ、まるで何かに揺れ動かされているような様子だった。
健二は、彼らが呪われた存在に囚われてしまったのではないかと思った。
急に、神社の中から強い風が吹き荒れ、彼らの髪が揺れ、視界が暗くなり、周囲から奇妙な囁き声が聞こえてきた。
「呪いが解けることはない…君たちは見えぬ者に選ばれた」と。
その瞬間、彼は彼の友人たちが彼を拒絶するようにさえ見えた。
彼は恐怖に駆られ、走り出すと、森を全速力で駆け抜けた。
その後ろで、「残された者たちよ、また会おう」という声が響き、彼は振り返ることさえできなかった。
家に帰った健二は、それ以降、あのキャンプの思い出を封印することにした。
しかし、彼の心からあの神社の声が消えることはなかった。
それはまるで、彼を選びし呪いの一部であるかのように、彼を絡め取って離さなかったのだ。