集落の外れに存在する「ン」と呼ばれる不気味な場所。
地元の人々はその存在を恐れ、口にすることすら避けるようになった。
「ン」には一度足を踏み入れた者が消えてしまうという噂が広がり、次第に訪れる者は誰もいなくなった。
春の日差しが柔らかく降り注ぐある日、大学のサークル仲間である佐藤、田中、鈴木の3人は、肝試しの名目でこの禁断の地に挑むことに決めた。
「ただの噂だろ。行かない理由なんてないだろう」と佐藤は言い、田中と鈴木もその言葉に乗っかった。
彼らは好奇心と肝試しの一環として、その場所へと向かった。
集落の道を進むにつれ、次第に周囲の風景が変わっていく。
いつの間にか住宅街は薄暗くなり、森に囲まれた道を抜けると、不意に目の前に現れたのは、まるで時が止まったかのような廃屋だった。
「これがンか…」佐藤が呟くと、鈴木は「ちょっと気味悪いな」とつぶやいた。
田中は興奮気味で「さあ、入ろう!」と屋内に足を踏み入れた。
建物の中は冷たく、薄暗い空気が流れていた。
壁には見えないものの耳鳴りが響いているような感覚がした。
彼らは声を掛け合いながら、奥へと進んだ。
途中、古びた鏡があり、鈴木はふと顔を映してみたが、そこには反射した自分の姿ではなく、何か見知らぬ影が一瞬映ったように感じた。
「おい、今、何か映った?」鈴木が声をあげるが、他の二人は「気のせいだろ」と笑った。
その後、部屋をいくつか通り過ぎると、突然、田中の姿が消えた。
「田中? どこに行った?」佐藤は周囲を見回し、鈴木も不安げに声をあげた。
しかし、田中の声は戻ってこなかった。
彼の存在は、まるで初めからいなかったかのように消え失せてしまった。
二人はパニックに陥り、「急いで外に出よう」と言いながら、必死で出口を探したが、廊下はなんども同じ場所に戻ってくるようで、出口が見つからなかった。
「どうしてこんなことに…」鈴木は言葉を詰まらせ、冷や汗をかいていた。
何度も何度も同じ扉を開けても、彼女の風景は変わらず、不気味な笑顔の影がちらちらと見える。
「田中がいない。どうする?」佐藤は動揺を隠せず、落ち着こうと必死になった。
突然、また鈴木が声を上げた。
「あれ、見て! 窓の外!」彼が指差した先には、何か白い布が見えた。
その布は風もないのに揺れており、中に何かが仕込まれている様子だった。
「早く見に行こう!」と佐藤が beckoned するが、心のどこかで感じる恐怖がそれを妨げていた。
忍び寄る恐怖心の中、鈴木が一歩踏み出した瞬間、ドアの向こうから田中の声が響いてきた。
「鈴木、ここにいるのか?」その声は確かに彼が知っている田中の声だった。
しかし、その声には何か不自然さがあった。
鈴木はフラフラとその声の方へ向かってしまい、佐藤は叫んだ。
「鈴木、待て!」
しかし鈴木はすでにその部屋に入り込んでしまい、再び鈴木の姿も消えた。
佐藤は一人残され、恐怖で震えながら立ち尽くした。
「私はまだ帰らなければならない…」絶望的な思いを抱えながら、彼は建物の中を探し回った。
だが、すべての道が塞がれ、未だ出口を見つけることができなかった。
その時、背後からまた聞き慣れた声がした。
「佐藤、一緒にここで楽しもうよ。」振り向くと、そこにいたのは錆びた笑顔の鈴木と、田中の姿だった。
だが彼らの目には、もう生気が失われ、虚ろな笑みを浮かべていた。
「君も仲間になって、ずっと遊べるんだよ…」その瞬間、佐藤は自分にも変わり果てた運命が待ち受けていることを知った。
何もかもが消え、彼もまた「ン」の一部になっていくのだった。