秋の深まったある夜、清水翔太は自宅の二階で一人、ゲームをしていた。
画面の明かりと、外から聞こえる時折の風の音だけが彼の周りを支配している。
ふと、窓の外を見たとき、彼は何かが気になる。
まるで誰かが通りすぎたかのような影が、彼の目の端に映ったのだ。
翔太は視線を移し、周囲には誰もいないことを確かめた。
その瞬間、脳裏にかすかな恐怖が広がる。
「気のせいだ」と自分に言い聞かせたが、心の奥では不安がじわじわと膨らんでいた。
まるで影が彼の心に入り込んできたかのように。
彼は再びゲームに集中することにしたが、集中することができない。
まるで誰かが自分の背後にいるかのような感覚が、彼を苛んでいた。
そして、もう一度窓の外を見ると、今度ははっきりとした影が見えた。
暗闇の中で、細い人影が揺れている。
翔太は心臓が高鳴るのを感じた。
「先に何かいるのか…」と彼はつぶやく。
影は薄明かりの中で、まるで彼を見つめ返しているように感じられた。
恐怖に駆られ、翔太は思わず立ち上がり、窓まで近づいた。
外は静まり返っており、風の音だけが耳に響く。
影はもう見当たらなかったが、彼の中には疑念が残った。
少しずつ不安が膨れ上がり、翔太は無意識のうちに部屋を見回した。
すると、彼の視線は壁の影に引き寄せられる。
壁に映る影は、何かを訴えかけるように動いていた。
それはまるで、誰かの存在がこの家に残っているかのようだった。
翔太は背筋を凍らせながら、思わず頭を振った。
「おいおい、やめろよ、そんなこと考えるなよ。」自分に言い聞かせながらも、影の動きは彼の目から離れなかった。
彼は静かに部屋を出て、階段を降り、居間へと向かった。
その道中、影が彼の後ろをついてくるような感覚が続く。
居間にたどり着くと、翔太は母親がいて、テレビの光が部屋を明るく照らしていた。
安心しようと思った瞬間、彼の目に飛び込んできたのは、テレビの画面に映るまるで別人のような姿。
母親が映っているのに、その顔は不気味に歪んでいる。
彼は心を落ち着かせようとしたが、影は彼のそばから離れず、まるで彼自身を責めるかのように、彼の意識に入り込んでくる。
翔太は背後の影に気付き、恐る恐る振り返る。
何もない空間に目を凝らすと、徐々に形が見えてきた。
そこに立っていたのは、自分と同じぐらいの年齢の友人、先（さき）だった。
「翔太、久しぶりだね…」彼の声は、どこか異質な響きを持っていた。
翔太は呆然とした。
先は笑っていたが、その笑顔は不気味で、どこか歪んでいる。
恐怖に駆られる翔太は、距離を取るように後ずさりする。
「翔太、私はここにずっといたよ。あなたの影として…」先の言葉が耳に響く。
翔太は恐れと混乱の中で自分の足を動かそうとしたが、動かない。
彼はただ立ち尽くすしかなかった。
「私と一緒に遊びましょう？」先の言葉に後ろめたさを感じながら、翔太は「遊びたくない！」と叫んだ。
その瞬間、先の表情が変わる。
彼女の目は冷たく、まるで翔太を飲み込もうとするかのように光っていた。
「あなた、戻れないの。ここにいるのが私の運命だから。」先はゆっくりと近づいてくる。
翔太は恐怖に駆られ、必死に逃げ出した。
彼は階段を駆け上がり、自分の部屋に閉じ込めた。
ドアを閉め、鍵をかけたが、影は逃れられそうにない。
翔太は自分の影が、今まで見えなかった世界と繋がっていることに気づく。
影が導く先には、先が待っているのだ。
彼の頭の中でさまざまな声が響く。
「あなたも私と一緒にここにいようよ…」その声は、いまだに彼を引き寄せていた。
翔太の心の奥底に積もった影が、ますます濃くなり、彼を包み込む。
新たな影として彼の中に残る先の声は、彼が逃げたとしても、決して消えることがなかった。
まるで自身の影が、彼の心の中でより深くそっと潜んでいるかのように。
