彼の名は田中翔太。
大学の友人たちと旅行に出かけた北海道の山中で、忘れられない恐怖を体験することになるとは、彼は夢にも思っていなかった。
その日、彼らは何も知らず、自然を楽しもうと山を登り、心地よい日差しの中でピクニックをすることにしていた。
しかし、日が暮れる頃、突然の嵐に見舞われ、彼らは慌てて山を下りることになった。
翔太は友人の佐藤健一と高橋真美、そして小林大樹の4人。
彼らは、どこかのキャンプ場で一夜を明かすつもりだったが、嵐のために道に迷ってしまう。
雨に濡れた木々の中、震える手でスマートフォンのライトを頼りに、翔太は立ち止まった。
「もう少し進めばキャンプ場に着くはずだ」と強がった声を出すが、仲間たちの表情には不安が漂っていた。
周囲は異様な静けさに包まれ、風の音すら聞こえない。
次第に彼らは、何かが彼らを見ている気配を感じ始めた。
その時、翔太の視界の端に、薄暗い道が目に入った。
「おい、あっちに道があるぞ！」彼は指を指し、仲間たちはそれに従った。
道を進むにつれ、不気味な静寂が彼らを包み込んでいった。
道の両脇には、朽ち果てた木々が立ち並び、それがまるで彼らの行く手を阻むかのように見えた。
「ここ、本当に大丈夫なのか？」と真美が怖々と聞く。
翔太も不安が募ってきたが、リーダーとしての責任感からは逃げられない。
「大丈夫だ。もう少しだ、すぐに避難所に着く」と引きつった笑顔を浮かべた。
ところが、その道を進むにつれて、周囲がどんどん異様な雰囲気に包まれていく。
濃霧が立ち込め、視界がぼやけてきた。
「何かおかしい…」と大樹がつぶやいた。
その瞬間、彼らの背後から低い声が聞こえた。
「後ろ、後ろに…」
振り返ると、そこには恐ろしい顔をした影が一瞬現れ、すぐに消えた。
4人は恐怖に染まり、息を飲む。
「あれは…何だったんだ？」翔太が声を震わせながら言った。
その影は、一瞬だけだったが、彼らの心に深く刻まれた。
「もう戻ろう。逃げよう！」と健一が叫び、道を引き返そうとした。
しかし、彼らが戻ろうとするたびに、道はどんどん長くなっているように感じた。
「どうして…どうして進めないんだ…」失望感が翔太を包み込む。
混乱する中、またあの囁き声が聞こえた。
「抗え、抵抗することはない…」不気味な声だった。
翔太たちの心に恐怖が広がる。
誰もが震え、呼吸が乱れ始めた。
「ここから出られないのか…」大樹の声はうわ言のようだった。
彼らはその声に引き寄せられるかのように深い森の中へと進むしかなかった。
心の底で、「この道には何かがある。もしかして、死が待っているのかもしれない」という思いが交錯していた。
翔太はその思いを振り払うように、仲間たちを引っ張り続けた。
しかし、目の前に現れたのは、朽ちた石碑だった。
「ここで道を選べ」と刻まれていた。
それを見た瞬間、翔太の頭の中に様々な映像が浮かび上がる。
見たこともない光景、子供たちの笑い声、そして流れる悲しみの歌。
彼は息を飲んだ。
翔太は立ち尽くし、心が引き裂かれるような感覚に襲われた。
「私はここに留まってはいけない」と思ったが、仲間たちはその場から動けずにいた。
恐怖が彼らを縛りつけていた。
「後に戻ることはできない」と再びあの声が響く。
「抗え、抗え…」翔太は心の中で呟いた。
その瞬間、彼の周りの景色が変わった。
友人たちの姿が次第に薄れていき、彼は一人、暗黒の中に取り残されてしまった。
彼が次に目を覚ますと、もはや山はそこにはなく、静かな村に立っていた。
その光景はまるで夢のような美しさだったが、心の中に潜む恐怖が彼を怯えさせた。
「本当に終わったのか？」彼は自問自答する。
彼は結局、友人たちを失ったまま、忘れ去られた道の真実を知ることになり、後悔の念に苛まれ続けるだろう。
あの道が彼らをどこへ導いたのか、今も彼にはわからなかった。
