彼の名前は健太。
大学で文芸を学ぶ彼は、家の近くで有名な「ポ」という場所に特に興味を抱いていた。
ポとは、古い神社がある森の奥に隠れた小さな池のことだ。
地元の人々は、この池には神聖な力が宿っていると信じており、近づくことを避ける者も多かった。
しかし、健太はその神秘的な物語に魅了され、夜中に訪れることを決心した。
月明かりの下、健太はポに向かって進んだ。
池に着くと、静寂に包まれたその場所は、周囲の森に囲まれて一際異様な雰囲気を醸し出していた。
その瞬間、彼の心に突如として不安がよぎった。
しかし、好奇心に勝てず、そのまま池の水面をじっと見つめた。
透明な水は、まるで何かを飲み込もうとしているかのように、不気味に波打っていた。
池の水に反射した月光が、彼の目を引きつけた。
その時、奇妙な現象が起こった。
突如、水面が波立ち、何かが浮かび上がってきた。
彼の心臓はドキドキと高鳴り、恐怖が彼を襲った。
一瞬目の前に現れたのは、人の形をした影だった。
「私を呼んだか?」その声は低く、ささやくように響いた。
健太は恐怖で声も出せずに立ち尽くしていた。
彼が想像していた神秘的な存在とは全く異なり、その影はどこか哀しげだった。
この存在は、一体何を求めているのだろうか。
影は彼に近づき、何かを訴えるように指を差した。
見ると、池の水面には浮かび上がるように映る健太の姿があった。
しかし、その表情は険しく、何かを訴えかけているようだった。
彼自身の姿が、まるで別の存在のように思えた。
「念」とは、彼がずっと考え、悩んできたテーマだった。
何かを強く念じることで、自分の願いが叶うと思い込んでいた。
しかし、その念が裏目に出ることもあると、人々から聞いていた。
その時、彼はこの影が何を意味しているのかを理解し始めた。
もしかすると、彼自身の強い思いが、池に何かを呼び寄せてしまったのかもしれない。
影は彼の心に直接語りかけてくる。
「私の存在を忘れてくれるな。この池の底で、私は永遠に待っている。お前の念が私を呼んだのだ。」その言葉は、彼の心の奥深くに冷たく響いた。
恐ろしいことに、彼が抱いていた無邪気な願いが、影を生んでしまったのだ。
恐怖にかられながら、健太は後退り始めた。
しかし、影は彼を捕まえるようにその手を伸ばしてきた。
「逃げるな。お前の念は私を選んだのだ。私と共に永遠に生きる覚悟を決めろ。」影の存在は次第に強くなり、彼の視界はぼやけてきた。
気が付くと、健太は池の縁に立っていた。
彼は自分の心の中の思いを見つめ直す決心をしなければならない。
恐怖を感じながらも、彼は心の底から願った。
「消えてくれ、お願いだから!」しかし、その願いは無情にも影を呼び寄せてしまうだけだった。
健太は恐怖を振り切るように池から離れたが、その影はずっと彼の後をついてきていた。
日常生活に戻った後も、彼は常にその影を感じ、心の中の迷いから逃げられなかった。
夢の中でも池のシーンが繰り返され、影が彼に問いかけ続けた。
「お前は何を求めているんだ?」
数週間後、健太はもう耐えられなくなった。
彼は再びポに向かい、自分の思いを果たすために影と向かい合うことを決意した。
「もう逃げない。私の念を受け入れてくれ。」彼はそう言った瞬間、影は彼の心の中に入り込み、すぐに圧倒的な存在感を放った。
健太は影と一つになり、永遠に池の水面の下で生きることを受け入れた。
風が吹き、池の上には静寂が広がる。
その後も、彼の心の中には影が存在し続け、忘れられた過去との永遠の対話が続くこととなった。