深い森に囲まれた神社があった。
そこには古くからの神が祀られ、村人たちはその神に感謝し、祈りを捧げていた。
しかし、その神社には不気味な噂があった。
「神社の裏山にある穴の中には、神が望んではいないものが眠っている」と村の人々は言っていた。
その穴は薄暗く、まるで何かがそこに蔽(おお)い隠されているかのようだった。
好奇心旺盛な高校生の健太は、その噂を聞きつけ、友人の美咲と共に神社へと向かった。
彼らは夏休みのある日、探検をすることにしたのだ。
神社に着くと、二人は神聖な雰囲気が漂っているのを感じた。
しかし、何かが少し不穏だと感じるものの、彼らは気にせずに裏山へ向かうことにした。
洞穴は思ったよりも大きく、入り口は大きな岩に覆われていたが、二人はそれをかき分けて進んだ。
中はひんやりとしており、暗闇が二人を包み込んでいた。
懐中電灯の光が壁を照らすと、そこには神社の神にまつわる古い絵や文字が彫られていた。
美咲は「これ、神社の歴史を記したものかもしれないね」と興奮気味に言った。
しかし、健太はどこか不安を感じ、先に進むことに躊躇していた。
さらに奥へ進むと、突然、暗闇の中から冷たい風が吹き抜け、懐中電灯が一瞬消えた。
健太は驚いて叫んだ。
「なんだ、今の風は!」反響する声が彼の耳に響く。
しかし、美咲は笑った。
「大丈夫、何も恐れることはないよ。もっと奥に行こう!」
健太は仕方なく続いて行くと、洞窟の中央に来た。
すると、そこには見たこともない、不思議な石像が立っていた。
石像は、穏やかな笑みを浮かべた神様の姿でありながら、どこか悲しげな表情をしていた。
健太の心に不安が広がった。
「この神様、何かを伝えようとしているみたい」と美咲が言う。
すると突然、石像の目が光を放ち、洞窟全体に冷たさが広がった。
健太は恐怖を感じて後退り、「もう帰ろう、美咲!」と叫んだ。
しかし、美咲はその場を動こうとしなかった。
「私、これを見逃してはいけない気がするんだ。」
その瞬間、洞窟の壁に描かれた文字が光り、健太の目に飛び込んできた。
「奪われし者は……蔽(おお)いを被る」という言葉が繰り返され、まるでその言葉が彼の心に響いているかのようだった。
健太は自分の身に何かが起こるのではないかと恐れ、手をつかんだ。
「美咲、動いて、お願い!」
美咲はその言葉に耳を傾けず、石像に近づいていった。
「もしかしたら、神様からのメッセージかもしれない……」その瞬間、石像の背後に隠れていた闇から何かが飛び出し、美咲を包み込んだ。
彼女の顔には恐怖の色が浮かんだが、それはすぐに見えなくなった。
健太は叫び、洞窟から逃げ出した。
何が起こったのかさっぱり理解できなかった。
美咲の声が洞窟の奥から響いてくる。
「助けて……私を……返して!」しかし、その声は次第に消えていった。
健太は何度も振り返り、彼女を呼び続けたが、もはや彼女の姿はなかった。
神社に戻ると、空は真っ暗になり、夜の帳が降りてきていた。
その時、村人たちが集まり始める。
健太は彼らに事情を説明しようとしたが、誰も信じてはくれなかった。
「神の怒りを買う者がいると、村は冬の間蔽い続ける」と、年老いた神職が健太に言った。
村人たちの間に広がる恐ろしい雰囲気の中で、健太は一人、友人を失った悲しみを抱え、神社へ祈りを捧げることしかできなかった。
彼女の代償が、永遠にこの村に影を落とすことになると、健太は薄暗い神社の前で静かに思うのだった。