田中は若いころから、自然を愛し、特に木々とのふれあいを大切にしていた。
町外れにある古い森は、珍しい樹木や、神秘的な雰囲気に包まれていた。
彼はその森を訪れるたびに、心が癒され、何か特別なものを感じていた。
ある日、田中は師と仰ぐ長谷川と共に、その森を訪れることになった。
長谷川は自然療法の専門家で、木々や植物と深い結びつきを持っている人物だった。
彼の教えを受けながら、田中は木々が持つ力を理解し、より深い自然とのつながりを求めていた。
森に入ると、長谷川は田中に特定の木を指し、「この木は特に然(しか)るべき力を持っている」と言った。
その木は、古木として知られ、周囲には数十年の歳月を重ねた他の木々よりもひと際大きく、太く、どっしりと立っていた。
幹はうねり、枝葉は青々としており、まるで何かを訴えかけているように見えた。
「真」の心を持つ者だけが、この木の力を感じとることができるのだ、と長谷川は続けた。
そして、木の周りには「た」と記された小さな石が並べられており、これは古くからの言い伝えに基づくものであった。
その石は、森の精霊が宿る場所の目印だとされていた。
「この木に触れてみなさい。あなたの心の中にある恐れや不安を解き放つ助けになるだろう」と長谷川は言った。
田中は少し不安を感じながらも、その言葉に従い、木に手を触れた。
すると、瞬間、温かいエネルギーが手のひらを通じて流れ込み、彼の心の奥深くにある靄が晴れていくのを感じた。
だが、そのすぐ後、何かが変わった。
雲が急に厚くなり、薄暗い森の中に冷たい風が吹き抜ける。
木々の間から低い呻き声が聞こえてきた。
田中は驚き、長谷川の方を振り向くと、彼は何も言わず静かに木を見つめていた。
心の中で何が起きているのかを理解しようと必死だった。
「この木には、未練を残した霊が宿っているようだ」と長谷川がつぶやいた。
田中は寒気を覚え、何をすればよいかわからなかった。
その霊は長い間、この森に縛られているらしい。
田中は恐怖心を抱えながらも、長谷川の指示に従い、その木の周りをゆっくりと歩いてみることにした。
周囲が徐々に暗くなり、木の存在感は一層強烈になった。
田中は深い呼吸を繰り返しながら、自分自身の内面と向き合おうと試みた。
すると、再び低い声が彼の心に響いた。
「助けてほしい」と。
その声は救いを求めるように聞こえた。
「る」という力を持つこの木に託された思いが、その霊を解放する鍵となる。
田中は一瞬の決断を下し、心の中にある恐れを全面的に受け入れることにした。
そして、その霊に向かって思いを伝えた。
「あなたの苦しみを知り、あなたを解放したいと思っています。私が何をすればいいのか教えてください。」
その瞬間、強烈な閃光が木から放たれ、周囲が眩しくなった。
田中は目を閉じ、光に包まれた。
しばらくの間、何もわからなくなったが、再び目を開けたとき、目の前に長谷川が笑顔で立っていた。
「あなたは真に自分の内面と向き合った。これであの霊は解放されるだろう」と長谷川は言った。
田中は安堵の気持ちが広がり、森の空気が軽やかに感じられた。
これまでに感じたことのない解放感。
それは、木と霊が結びついていたからこそ生まれたものだった。
その後、田中は長谷川に感謝の意を表しながら、再び木々に触れることで自然とのつながりを深めることを決意した。
彼にとって、この出来事は決して無駄ではなかった。
ה長谷川の教えを胸に、田中は木々の声に耳を傾けることが、これからの自分の道であることを理解したのだった。