修は年内の昇進を目前に控えた中堅社員だった。
彼の職場は活気にあふれ、同僚たちとの信頼関係も深まっていた。
しかし、心の奥には一つの暗い影があった。
それは、同僚の清子に対する妬みだった。
清子は修と同じく優秀で、いつも周囲の評価を独り占めにしていた。
彼女のスキルとその人柄に皆が惹かれ、修は次第に心の中で彼女を敵視するようになっていた。
昇進発表の数日前、修はある古びた神社の近くにある、あまり訪れられない境内の中を散策していた。
仕事のストレスから逃れようと選んだ場所だったが、そこでの異様な静けさに気圧されてしまった。
その時、修の目に映ったのは、朽ち果てたお堂の中に祀られた霊の姿だった。
顔はぼやけて見えたが、何か不気味なものを感じた。
直感で、それが自分の邪念を見透かされているように思えた。
翌日、修は清子の昇進が決まったことを知らされた。
瞬間、心の中に暴風が吹き荒れた。
他の同僚たちから祝福される彼女の笑顔を見ながら、修は嫉妬心に突き動かされる。
翌日の朝、彼はその霊を思い出し、妬みの感情を抑えきれなくなった。
修は彼女に不幸が訪れることを願った。
その夜、修は夢の中で再びその霊に出会った。
彼女は今度ははっきりとした顔立ちの女性で、修の心の中を読み取るようにじっと見つめていた。
「妬みは何も生まない。むしろ災いをもたらす」と彼女はしっとりした声で言った。
修はその言葉に動揺し、目を覚ました。
彼が今も清子に対して持つ気持ちが、ますます強くなっていくのを感じ、恐怖心を覚えた。
次の日、修は会社を休むことにした。
頭の中でその言葉がこだまし、仕事に行く気力も失せていた。
自宅で過ごす時間が長くなるにつれ、彼は過去の思い出に浸り始めた。
自分が清子を妬む理由や、彼女の持っている魅力を思い返すうちに、心の中で何かが崩れていくような感覚があった。
その晩、修はまた例の霊を夢に見た。
今度は彼女が、先ほど彼に警告した内容を深く掘り下げていった。
「妬む心が、人を引き裂く。不幸をもたらすのはあなた自身。」その言葉に胸が痛み、修は何か苦しみに満ちたものを感じた。
目が覚めた時、修は恐れを抱えたまま、鏡を見つめていた。
自分の後ろには、あの霊が不気味に微笑みながら立っているのを見てしまった。
修は恐怖心から逃げるように叫び声を上げたが、鏡の向こうの彼女は消え去ることはなかった。
彼女の視線はずっと彼を見守り続けていた。
その後、修は清子に対する妬みと向き合うことにした。
昇進を素直に祝福することで、彼女の成功を受け入れようと努力した。
しかし、その神社での出来事は、彼の生活に影を落とし続けた。
清子に会うたびに、彼女の背後にあの霊の姿を感じてしまうのだ。
時が経つにつれ、修は妬みがいかに自分を蝕んでいたのかを理解するようになった。
ある日の帰り道、ふと気がつくと夜の神社の前に立っていた。
心のどこかで、その霊に謝罪をしなければならないと思った彼は、深く頭を下げた。
「すみませんでした」と呟くと、どこからともなく優しい風が吹き抜け、彼の肩を撫でる感触がした。
それからの修には、清子に対する妬みは消え、彼自身も成長することができた。
しかし、その霊の存在は修の心の中で消えることはなく、自分自身の闇を理解する手助けとなっていた。
彼は心の中でその霊に感謝し、これからの人生をしっかりと歩んでいくことを決意したのだ。