深い闇に包まれた村、月明かりも届かない場所で、一人の少年、健太は静かに帰路についていた。
この村には、代々語り継がれる不気味な言い伝えがあった。
それは「闇の絆」と呼ばれるもので、最愛の者の魂が消えたとき、周囲の闇がそれを取り込み、取り返しのつかない出来事が起こるというものだった。
健太は、幼い頃に母親を亡くしていた。
彼は小さな胸の奥に、母との温かな思い出を抱きしめながら生きてきたが、それと同時に喪失感にも苛まれていた。
彼が歩いている道すがら、ふとした瞬間、闇が彼の足元に広がっているように感じた。
周囲の木々が不気味に揺れ、夜の静けさを壊す音が聞こえる。
彼は、誰かが自分を見ているような気配を感じ、身震いした。
その日の夜、健太は友人の直樹と一緒に、村外れの神社へ向かうことにした。
実は直樹もまた、母親を早くに失っていた。
二人は互いの思いを共有し、母の思い出を語り合うことで、何かしらの絆を感じていた。
しかし、彼らの心の奥にある傷は癒えることがなく、特にその夜は暗い気持ちが支配していた。
神社に着くと、二人は静かに手を合わせた。
「私たちの母親が、笑顔でいることを願います」と直樹が呟いた。
自分の思いを託すように、健太も心の中で同じ願いを唱えた。
その瞬間、神社の奥から人影が現れ、二人は不気味な感覚に襲われた。
「お前たち、何を求めてここに来たのか」その声は低く、冷たい響きを持っていた。
振り向くと、見たことのない老人が立っていた。
健太と直樹は驚き、言葉を失った。
老人は、彼らの心の中を見透かすように、ゆっくりと進み寄ってきた。
「お前たちには、失った者の魂を取り戻す力がある。しかし、その代償は重い。絆を信じ、選ぶべきか?」老人はまるで暗闇の中にいるような存在感を放っていた。
二人は一瞬互いの顔を見合わせ、怖れを感じつつも、心の奥で母親への愛情が強くなっていくのを感じた。
健太は意を決し、「私たちは、母の魂を取り戻したい」と口にした。
直樹も続けて、「二人なら、きっと絆でつながれる」と頷いた。
老人は笑みを浮かべると、「では、魂を求める準備をしろ。だが、知らぬうちに闇の中に巻き込まれるかもしれん」と警告した。
その言葉が耳に残りながら、二人は、不安を抱えたまま神社で待つ決意をした。
月が沈み、闇の底から声が響いてきた。
「魂を求める者よ、何を覚悟するか。絆は強く、しかし脆くもある」と。
突然、周囲の闇が二人を包み込んでいく。
彼らは目を閉じ、心の中で母親の温もりを思い描いた。
気がつくと、健太は一人で地面に倒れていた。
直樹がいないことに気づく。
そして、辺りには不気味な静寂が広がっていた。
その瞬間、暗闇の中から直樹の声が響く。
「健太!私はここだ!母さんを呼ぶから、焦らないで!」
健太はその声を元に手を伸ばす。
彼もまた母親を想い、心の中で叫んだ。
「お母さん、そばにいてください!」すると、闇の奥から鮮明な母親の姿が浮かび上がった。
急に光が差し込み、健太と直樹は一緒に母親の元へ駆け寄ることができた。
母の笑顔が闇を照らし、彼らが求めていた「絆」が彼らを取り戻した。
どんなに闇が襲っても、愛が勝る瞬間を信じることで、命を宿すことができるのだと感じた。
けれども、声はまだ背後から響く。
「しかし、失った者は戻ってくる。しかし、新たな影が生まれることも忘れるな」と。
彼らは恐れを抱きつつ、強い絆を感じながら村へと戻った。
闇が再び近づこうとも、彼らの道には必ず母の笑顔が待っているのだと信じて。