「原っぱに潜む影」

静かな原っぱが広がる場所には、かつて多くの人々が集まり、賑やかな祭りが開催されていた。
しかし、今では誰も近寄らない、荒れ果てた場所となっていた。
草は背丈を超え、風に揺れる音が耳に痛いほどの静寂を生んでいる。
そこには、実際には存在しないはずの敵、人間の心の闇が潜んでいると言われていた。

ある日、平田という若者がその原っぱに足を運んだ。
好奇心から、否応なく彼の心を引き寄せたのだ。
彼は友人から、そこには「長い影が現れ、人の在り方を奪う」という噂を聞いていたが、自分の目で確かめたかった。
友人たちは笑い話として語り、実際に行く勇気はなかった。
そして、そんな噂を信じる自分を試したくなったのだ。

原っぱに着くと、異様な空気が流れていた。
空は暗く、まるで日が沈んでいくかのように薄明るい。
彼が周囲を見渡すと、草が揺れ、何かが潜んでいるのを感じた。
心の奥底で不安が芽生えながらも、平田はその場を進んだ。

少し歩くと、長い影が彼の前に現れた。
それは人間の形をしていたが、どこか異様で、彼の心に不安を植え付けるような存在感を持っていた。
影は静かに彼に近づくと、微かに囁くような声で言った。
「あなたの心の中には、私が求めるものがある。」

その瞬間、平田の心に浮かんだのは、友人との関係、日常のストレス、そして自分の中に溜まった嫉妬や怒りだった。
自分では気づかないふりをしていた感情が、影によって炙り出されていく。
彼は嫌な予感に駆られ、足を動かそうとしたが、身体が動かなかった。

影は続けて、低い声で囁いた。
「その心の闇をすべて私に捧げなさい。そうすれば、あなたは解放される。」平田はその言葉に恐怖を抱き、拒絶しようとした。
だが、自分でも知らなかった心の奥の敵が彼を操り始めていた。

「私はお前の友人の言葉や思い出を消すことができる。」影は冷酷に語りかけ、平田が大切にしていた人たちの顔を次々と見せた。
それは、彼が裏切ったり、傷つけたりした思い出だった。
彼は心が締め付けられる感覚を抱き、さらにその影に呑まれそうになった。

「そなたの心の中には、もっと多くの敵がいる。」影が言い放つ。
平田はついに意識を失うものの、彼にとっての敵が何であったのか、理解することはできなかった。

目を覚ました時、彼はまだ原っぱの中にいた。
空は紫色に染まり、周囲は不気味な静寂を保っていた。
影は消えていたが、彼の心の中にはその存在の影が色濃く残っていた。
友人たちの顔が薄れていく感覚を覚え、彼は一人ぼっちであることの恐怖を味わった。

その後、彼は元の生活に戻るが、影響は無視できなかった。
友人との関係は次第に疎遠になり、平田は孤独に苛まれた。
彼の心の中に潜む敵、つまりは自分自身の思いが、彼を苦しめ続けたのだ。

今でもその原っぱには、彼のような者たちがやってくる。
しかし、影が現れることはない。
ただ、そこに行けば自らの暗い感情が強くなることを知る者は少ない。
平田は、今でもその場所に足を運び、影の声を思い出し、自らの敵に立ち向かうことを決心するのだった。
どれだけ心の奥底に眠っているのか、その敵は恐怖と共にいつも彼の側にいることを彼は知っているから。

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