「生き埋めの廃墟」

ある廃墟の中、暗い静寂が支配する部屋に密が滞在していた。
彼女の名前は松永明子。
明子は、冒険心からこの廃墟に足を踏み入れることを決めた。
かつてこの場所は繁盛した工場だったが、今はただの陰湿な空間となり、うっすらとした埃とカビの臭いで満たされている。

明子は自らのスマートフォンのライトで周囲を照らしながら、なぜこの廃墟が放置されているのかを知りたかった。
噂によれば、数十年前にこの工場で異常事態が発生し、労働者たちが次々と失踪していったという。
原因は明らかにされず、その結果、工場は閉鎖されたのだ。
人々はその後もこの場所に近づかず、廃墟として忘れ去られていった。

迷路のような廃墟の中を進むにつれ、明子の中には興奮と共に不安が交錯していた。
彼女がこの場所を探索したい思いは、恐怖をかき消すほどのものであった。
しかし、その思いがすぐに彼女を不気味な現象へと導くことになるとは想像もしていなかった。

突然、彼女の視界の隅で何かが動いた。
振り返ると、そこには影がひとつ、薄暗い光の中に立っていた。
彼女の心臓は激しく鼓動し、恐れから逃げ出したい気持ちが強まった。
しかし、その影はじっと粘り強く彼女を見つめていた。
彼女はその男の顔をよく見ることはできなかったが、彼の醜悪さが何か異様であることはわかった。

「こちらへ来い」とその男は低い声で囁いた。
明子は恐怖に駆られつつも、ただその場に立ち尽くしてしまった。
彼は見知らぬ人間のようでありながら、親しみを感じさせる存在でもあった。
明子は何かに引き寄せられるように、その男のもとへ近づく。

すると彼は、明子の耳元でささやいた。
「ここには、かつて生きていた者たちの魂が閉じ込められている。その力はこの廃墟に宿り、生きる者を誘惑する。彼らは自らの思いを捧げることで、新たな生を求めているのだ。」

その言葉を聞いた瞬間、明子は背筋が寒くなった。
彼女の目の前に広がる工場の様子が、徐々に変わって見え始めた。
彼女はその部屋がかつて利用されていたことを思い出し、壁に残る古びた足跡や、暗い場所に置かれた道具を見ることで、かつての労働者たちの存在を実感した。

この場所では、彼らが生き埋めにされるような恐ろしい運命を辿ったのかもしれない。
明子はその恐怖が、自分自身を包み込む様を感じ始めた。
しかし、何かが彼女を引き戻そうとしている。
その男の声が背後に響き渡る。
「選べ、君も彼らの一員になるか、それとも犠牲となるのか。」

選択を迫られる中、明子は心の中で葛藤した。
彼女は生き続けるため、他の者を犠牲にすることはできないと思った。
しかし、同時に彼女も生き延びたいという思いが強まっていた。
彼女の意識が切り替わった瞬間、何かが明子を包み込み、異様な感覚に襲われた。

束の間の恐怖の後、全てが静かになった。
明子は再びその男の姿を見た。
彼の表情は依然として曖昧で、彼女を引き寄せる力のようなものが感じられた。
明子は一歩近づき、彼を見つめた。
「私は、私自身でいたい。」

その瞬間、彼女の周囲が暗くなり、異様な力が彼女を引き裂く感覚だった。
明子は抵抗しようとしたが、向けられる視線に耐えられず、ついに彼女も過去の労働者たちの一員へと取り込まれてしまった。
すべてが静寂に包まれ、彼女の存在は廃墟に溶け込んでいった。

数年後、廃墟を訪れた誰かがその場所について語った。
「この場所には、無数の声が聞こえる。選ばれなければ、永遠に犠牲者になるのだと思う。」廃墟の中に秘められた過去の影は、再び新たな犠牲者を待ち続けていた。

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