「炎の思い出」

古びた屋敷に住む小林優子は、家族の中でも特に過去を重んじる性格であり、亡くなった祖母の遺品や写真を大事にしていた。
しかし、彼女が住む屋敷には、祖母の思い出と共に、2023年のある不気味な記憶が深く刻まれていた。

ある寒い冬の日、優子は屋敷の二階にある祖母の部屋を掃除することに決めた。
埃っぽい部屋には、長い間忘れられていた様々な思い出が詰まっていた。
しかし、掃除を進める中で、彼女は一つの古い日記帳を見つけた。
それは祖母が生前に書いたものであり、ページをめくるごとに祖母の思いや出来事が生々しく蘇ってきた。

日記には、優子が知らなかった祖母の若き日の恋愛や、家庭環境への苦悩が綴られていた。
特に、彼女が語った「燃え上がる思い」と題された日記の一節が、優子の心に強く印象を残った。
「愛する人との出逢いは、まるで炎のように私を照らし、時には自分を焼き尽くすような危うさがあった」と。
その言葉を読むにつれ、優子は胸の奥に微かな不安を覚えた。

数日後、部屋の片付けを再開すると、今度は不思議な現象が彼女を襲った。
夜になると、小さな炎が窓の外で揺らめくのを見かけるようになった。
それはまるで自分を呼びかけるかのような光のようで、優子は次第にその炎に心を惹かれていった。
そして、彼女は思わずその炎を追いかけて、屋外に出てしまった。

外には誰もいない。
白い息を吐きながら、彼女は揺れる炎の正体を探した。
すると、遠くの方に炎が踊るように漂っているのを見つけた。
まるで、祖母が書いた「燃え上がる思い」が具現化したかのようだった。
優子はその炎に惹かれ、近づこうと一歩を踏み出した。

だが、その瞬間、彼女は思い出した。
祖母が同じようにその炎に引き寄せられ、最後には自らを焼き尽くすような思いを抱えていたことを。
彼女が残した日記には、愛と共に恐れがあったのだ。
優子はその時、自分が同じ過ちを繰り返すのではないかという恐怖に襲われた。

優子は必死に自分を振り返らせ、屋敷へと戻ろうとした。
しかし、体が思うように動かない。
炎は彼女を包み込むように迫り、温かさと共に危険な香りを感じさせた。
「決して近づいてはいけない」と祖母の声が脳裏に響いた。
彼女はその言葉を信じることにしたが、炎の魅力には逆らいきれなかった。

彼女は自分の心の中で何かが決定的に変わったことを感じた。
「愛が全てではない」と、ようやく悟ることができた。
その思いを胸に抱き、優子は炎を振り払うように必死に走り出した。
振り返ると、燃え上がる炎は彼女を追いかけるかのように、彼女の背後で渦巻いていた。

屋に戻った優子は、ドアを閉め、自らを守るようにしてその場に立ちつくした。
心臓が高鳴り、嵐のような恐怖と安堵の感情が交錯する中で、炎の明かりが次第に遠ざかっていくのを感じた。

そして、静寂が屋敷を包み込む中、彼女は改めて思い出した。
愛することは大切だが、その影には必ず危険が潜んでいるということを。
祖母の教えをもう一度かみしめることで、優子は彼女の思い出と共に、もう二度と同じ轍を踏まぬことを決意した。

それ以来、優子は祖母の思い出を心に留めながらも、燃えるような感情には慎重であろうと心に決めたのだった。
そして、彼女はその奇妙な体験を語ることはなかったが、確かな教訓を胸に抱きながら、日々を静かに過ごしていった。

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