その村には、古くから語り継がれている禁忌があった。
それは、村の外れにある「ま」と呼ばれる森のことだ。
美しい自然に囲まれているにもかかわらず、誰もその中に足を踏み入れようとはしなかった。
村人たちは、かつてその森で起こった恐ろしい出来事を知っていたからだ。
村の青年、弘樹は、その禁忌に興味を持っていた。
子供の頃から周りの大人たちから、森には「り」と呼ばれる存在がいると聞かされていた。
彼女は、禁忌を破った者たちに恐ろしい報復を果たす陰の者として伝えられていた。
村人たちが恐れる「り」は、一体どんな存在なのか。
弘樹はその真相を確かめるため、友人の舞と共に森に足を踏み入れることを決意した。
夜が迫り、月の光が森の暗闇を照らす中、弘樹と舞は緊張しつつも、心を決めて進んだ。
彼らは入り口の古い木の看板に刻まれた「禁」の文字を見上げ、言い伝えを思い出す。
入る者は、戻ってこないという警告がそこには刻まれていた。
しかし、彼らの興味は禁忌以上に、未知なる冒険を求めていた。
森の中に進むにつれて、周囲は次第に静寂に包まれた。
風もなく、どこか生気を失ったような不気味な雰囲気が漂っていた。
舞が「ね、こんな所大丈夫かな?」と声を震わせて尋ねると、弘樹は「大丈夫さ」と軽く笑ってみせた。
しかし、彼の心の内では不安が渦巻いていた。
すると、突然、目の前に霧が立ち込め始め、視界がぼやけ始めた。
弘樹と舞は驚き、足を止めて立ちすくんだ。
霧の中からはかすかな声が聞こえてきた。
「そこの者たち、何故この禁じられた界に足を運ぶのか?」その声は冷たく、不気味だった。
森は、まるで生きているかのように二人を包み込んだ。
弘樹は慌てて「もう戻りましょう」と言ったが、舞はその場に留まり、声の主に尋ねた。
「あなたは誰なの?」すると霧が晴れ、目の前に現れたのは美しい少女、りだった。
彼女はまるで夢の中の存在のように、そこに立っていた。
「私はここを守る者。禁忌を破る者には、それ相応の罰が待っている」と、りは冷然と告げた。
弘樹は言葉を失い、舞は恐怖に震えながら後ずさりした。
彼らは自分たちが犯した罪を思い出し、そこにいた理由を理解した。
彼らは禁忌を破り、この世界に入ってしまったのだ。
それでも、弘樹は何とか言葉を絞り出した。
「私たちはただ、あなたのことを知りたかっただけなんだ!」すると、りは微笑んだ。
しかし、その笑顔はどこか哀しみを秘めていた。
「知識を求めることは、時に危険を伴う。私が封じられた理由、それを想像することすら許されないだろう」と言い放った。
その瞬間、弘樹は何か大きな圧力を感じ、舞は悲鳴を上げた。
彼らは次第に周囲が暗くなっていくのを感じ、逃げるように走り出した。
しかし、座標すら失われたかのように、森は二人を捕らえ続けた。
暗闇の中、かすかに光る無数の目のようなものが彼らを見つめている気配がした。
弘樹は恐れで心臓が破裂しそうだったが、舞は振り切れなかった。
「私たち、どうすればいいの?」と叫んだ。
その時、りの声が響いてきた。
「恐怖が実体になるとき、あなたたちは永遠にこの森に封じ込められる。だが、真実を知りたいのなら、解放されるための試練を受けるが良い」。
その言葉が耳に残る中、光と暗闇の狭間で、二人は自らの運命を受け入れるしかなかった。
もはや引き返すことはできなかった。
彼らは、禁忌を破り、新たな試練に直面することとなった。
そしてその先に待つ恐ろしい真実は、果たして何なのか…。
その時、誰もが予想しなかった運命が待ち受けていた。