静かな夜、亮は仕事を終え、家に帰る途中の車の中で運転していた。
外は晴れ渡る星空だが、彼の心の中には不安が渦を巻いている。
何日も続く疲労感が、彼を重く圧しつけていた。
仕事のストレスや人間関係の疲れから解放されることを願い、早く帰りたいと焦る心情があった。
助手席には、大好きなホラー映画のDVDが置かれていた。
亮はそれを見ながらリラックスするつもりだった。
しかし、運転中の頭の中に描かれるのは、映画の怖いシーンではなく、最近の自分の不安やストレスだった。
突然、車のラジオがひんやりとした音を立てて消えた。
何気なくスイッチを入れ直すと、音楽番組が流れ出した。
明るいメロディーとは裏腹に、亮の心はポジティブになりきれず、むしろ覚醒したように感じた。
カーブを曲がった瞬間、前方に薄暗い人影が見えた。
驚いてブレーキを踏み込むが、影は一瞬で消えてしまった。
心臓がドキドキし、周囲を見回す。
辺りには誰もいない。
霊的なものを信じない亮だったが、何か引っかかるものを感じた。
その後も、彼は道を進んでいたが、時折、助手席の隅で何かが動いたような気配がする。
視線を寄せて見るが、そこには何もない。
ただ静かな夜の音が響くばかりだ。
運転に集中しようとしたが、影の存在がずっと背後に居るかのような息苦しさを感じた。
さらに数分後、車がガタリと揺れた。
何かが接触したのかと思い、再びパニックに。
その瞬間、薄暗い影が車に近寄っきて、明らかに人間の形をしていることに気づいた。
亮は恐怖心に襲われ、その影を振り払おうとアクセルを踏み込んだ。
だが、どんなに車を走らせても、その影はまるで彼の車の隣に寄り添うように消えることはなかった。
どんどんと道を進むが、恐ろしさは薄まるどころか、強まる一方だった。
彼は運転を続けることすらままならない状態に。
ふと、視界の隅にさっと何かが流れていくのを見た。
それは、一瞬だけ亮の目に留まった。
次の瞬間、車が大きく揺れ、後部座席からかすかなかすれた声が聞こえた。
「助けて…私を…」彼はパニックに陥り、ハンドルを握りしめても手が震えた。
「誰かいるのか!?」亮は声を震わせて叫ぶ。
「私を…助けて…まだ終わっていない…」その声は不気味で、まるで彼自身の内面的な苦痛が具現化したかのように感じられた。
容赦ない声だ。
一気に血の気が引くと同時に、亮の視界が揺らいだ。
車が急にフラフラとし、支えられた思考が崩れ去りそうになる。
苛立ちこそが、彼の心に何かを落とし込んだ。
不安、恐怖、孤独感。
それらが一気に明らかになり、圧倒される。
その時、車がまるで何かに引き寄せられるかのように急停車した。
まるで何かに衝突したかのような衝撃。
亮は前方を見つめ、そこには不気味な顔が見えた。
薄暗い空間で浮かび上がるその顔は、彼にとっては見覚えのあるもので、先日亡くなった友人の顔に重なった。
「もう一度…私を思い出してほしい…」その声はさらに深く響いた。
突然、彼は思い出した。
この友人は常に彼に寄り添ってくれたが、自ら命を絶ってしまった。
この苦しみは自分の無力さを象徴するものだった。
彼はその友人との思い出を振り返りつつ、涙が止まらない。
友人を助けられなかったという思い、内に秘め続けた未練が、今の彼を支配していた。
心の中の重荷が一つずつ体から離れ、やがて彼は友人の声に応えることができた。
「ごめん…本当にごめん。」
その瞬間、車内は静けさに包まれ、暗闇がすっと引いていった。
亮は自分の中で何かが解消された感覚を得て、運転を再開した。
彼の心には希望の光が差し込み、疲れた身体を癒してくれるような感覚が広がる。
外は静かな夜。
亮は帽子を脱ぎ、少しリラックスできるようになった。
そして、もう一度友人を思い出し、その思い出の中で生き続ける彼の姿を思い描いた。
道は続いていたが、それは彼の内面の成長の道にもなりつつあることに気づいた。