「無の森の呪い」

ある小さな村に、陽介という10歳の男の子が住んでいた。
村の近くには、誰も近づかない「無の森」と呼ばれる場所があった。
その森は、見る者に不気味な印象を与え、村の人々は決してその中に足を踏み入れようとはしなかった。

陽介は好奇心旺盛な性格で、いつも村の子供たちと一緒に遊んでいたが、一度も無の森に入ったことはなかった。
しかし、ある日、友達の中で軽はずみな言葉から、その森にまつわる噂を耳にした。
噂では、その森には「断ち切られた者たちの声」が響くというのだ。
村の者たちは言う、「無の森に足を踏み入れると、そこから二度と戻れなくなる」と。

陽介は、友達が恐れるその話を聞いてもなぜかワクワクしていた。
「本当にそんなことがあるの?」と興味をそそられ、彼はその森に行ってみようと決心した。
周囲の人々が恐れるものを自らの目で確かめたい、そう思ったのだ。

ある晩、陽介は暗くなるのを待って、ひっそりと無の森へ向かった。
月明かりの中、木々が影を作り出し、異様な静寂が森に漂っていた。
陽介は胸が高鳴るのを感じながら、ゆっくりと森の中へ歩を進めた。

やがて、木々が密集する場所にたどり着くと、急に冷たい風が吹いてきた。
陽介はその瞬間、背筋に寒気が走るのを感じた。
だが、恐怖に押しつぶされることはなかった。
「声を聞こう、確かめてやる」と心に決め、彼はさらに奥へ進むことにした。

その時、ふと耳にした声があった。
「助けて…助けて…」それは子供の声だった。
声の方向へ向かうと、陽介は薄暗い間に何かが動いているのを見つけた。
心臓が早鐘を打つ。
気が付けば、男の子がこちらを見つめていた。
しかし、よく見ると、その男の子の姿はぼんやりとしており、まるで霧の中から浮かび上がってきたようだった。

「君は…誰?」陽介は恐る恐る問いかけた。
「僕はここから出られない。君もそうなるよ…」その子は囁いた。
「無の森に来てしまったら、決して戻れない。抜け出したいのなら、誰かと交渉しなければならない。」彼の言葉が陽介の心の奥に響く。

「交渉?」陽介が聞き返すと、その男の子はうなずいた。
「僕たちは自分の命を誰かに引き渡さなければならない。この森では、断ち切ることが求められるんだ。」陽介は頭を悩ませた。
「それは…どういうこと?」

すると、男の子は、自分がこの森に迷い込み、もう抜け出せないことを話し始めた。
陽介はその話を聞いてショックを受けた。
彼が無の森に入ったのは、好奇心からだけだった。
「私が誰かを連れてきたら、君は助かるの?」陽介は無意識に口にしていた。

「そうだ。でも、君がその相手をどうやって見つけるのか、どれだけ彼らを信じられるのか、それが問題だ」と男の子は真剣に言った。
陽介は心の中で葛藤が始まる。
自分の命を他者に引き渡すことなど、考えられなかったからだ。

しかし、男の子の表情は恐れに満ちていた。
「呪いなんだ、ここは…君自身も断たれてしまう前に、考えな。」その言葉に、陽介は愕然とした。

やがて、陽介は後ろが怖くなり、思わず森を飛び出した。
振り返ると、あの男の子の姿はもう見えなかった。
彼は無の森は単なる迷信だと思っていた。
しかし、その夜以来、彼の心には恐れの種が植え付けられ、毎晩夢の中であの男の子の声が響いていた。

そして、時が経つうちに、陽介は何度も村の仲間たちがいなくなる夢を見た。
断たれた者として彼らが自分を呼んでいた。
陽介の心が不安定になる中、彼は一つ分かった。
「無の森」は決して人を見捨てない。
永遠に続く呪いをこの手で断ち切ることはできない、そう思わずにはいられなかった。

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