静かな田舎町、周辺には高い山々に囲まれた小道が続いていた。
その町には、「闇の森」と呼ばれる人が近寄ることをためらう場所があった。
森の中には、長い間失踪した者たちの噂が絶えず、誰もその奥深くに足を踏み入れようとはしなかった。
そんな町に暮らす佐藤亮介は、好奇心旺盛な高校生だった。
彼は幼い頃から、母親から聞かされていたこの町にまつわる古い伝説に興味を持っていた。
「闇の森には、少なくとも5人が行方不明になった」と町の人々は語り、その失踪者たちを懐かしむような目で見つめる。
しかし、その噂を信じる者はいなかった。
ある夜、勇気を持った亮介は、友達の高橋恵理を誘って森に行くことにした。
「どうせ大したことないよ」と彼は言った。
恵理は少し不安を覚えながらも、亮介の好奇心に引き寄せられ、彼と共に森の入口に立った。
薄暗い森の中、二人はそれぞれの懐中電灯を手に持ち、一歩ずつ進んでいった。
周囲の静寂が次第に不気味な雰囲気を増していく中、彼らは互いに顔を見合わせ、無言のまま先へと進んだ。
「あれ見て!」突然、恵理が指差した。
その先に、古ぼけた木製の小屋が見えた。
筋が通った木材と朽ちた屋根。
亮介はその小屋に興味を持ち、近づいて行く。
「この中に何かあるかも」と彼は興奮した声を上げた。
小屋の扉は不気味にきしみながら開いた。
中は空っぽで、薄暗い光の中に犠牲のような道具が散らばっていた。
しかし、亮介が目を凝らすと、その中央には一つの黒い石があった。
奇妙な模様が浮き上がっており、何か神聖な意志を秘めているかのようだった。
「これ、何だろう?」恵理は恐る恐る近づいて言った。
その瞬間、空気が変わった。
小屋の外で、ざわめくような声が聞こえ始めた。
「私たちのこと、忘れられたのか?」無数の声に囲まれ、二人は恐怖で身動きが取れなくなった。
「こ、これ、どういうこと?」亮介は声を震わせながら言った。
心の奥底で、何かが繋がっている感覚がした。
そして、その声は再び囁く。
「あなたたちは私たちを呼び寄せたのか?」
暗闇から姿を現したのは、失踪した人々の顔だった。
彼らは冷たい笑みを浮かべ、亮介と恵理に近づいてきた。
表情は残酷で、目は憎しみに満ちている。
亮介は後ずさりし、恵理の手を強く握った。
「逃げないで、待っているのです。新たな犠牲が必要だから」それはまるで、彼らに命じるような声だった。
亮介は必死に走り出した。
しかし、何かが彼の足を引き止めた。
小屋の中から両手を伸ばし、彼を捕まえる者たちの影が迫ってきた。
彼の心に宿る「正」の意識が、止まらない恐怖とともに煮えたぎっていた。
「私たちのことを、助けて…」
亮介は逃げようとしたが、その影は彼の心を蝕んでいく。
彼が幼い頃、失った大切なもの。
彼の心に潜む罪が、闇に飲み込まれようとしていた。
「私たちは無視された」と彼らは続けた。
恵理は振り返り、亮介を見つめた。
「私たち、どうするの?」彼女の声が崩れていく。
彼らはその恐怖から逃れられない。
永遠に闇に囚われ、正を求める声が苦しみを抑えられず響いていた。
その夜、亮介と恵理の姿は、誰の目にも映らなかった。
彼らは「闇の森」に永久に囚われ、もはやそこから出られることはなかった。
新たな犠牲者は、暗闇の中で孤独に呼び求めるように、そこに留まっていた。