「囚われの影」

新興住宅地の一角にある小さな市。
近くには静かな公園があり、子どもたちの遊び場として賑わっていたが、同時に人々はその公園の陰に潜む不気味な噂にも耳を傾けていた。
公園の中心には大きな古木があり、その根元にある小さな石像は、訪れる人々に敬意を払わせるような威厳を感じさせた。
誰もが気になる存在ではあったが、近づく者はいなかった。

ある日、高校生の佐藤仁志は、友達の西村明とともにその公園で遊ぶことになった。
だが、あまりの静けさに不安を覚えた仁志は、友達に言った。
「ねえ、あの石像って何かあるらしいよ。近づいてみない?」明は興味津々で、「そうだね、何か面白いことが起こるかもしれない」と半ば冗談混じりで賛成した。

二人はゆっくりと石像に近づくと、その周りに広がる不気味な空気に気づいた。
石像は年老いた僧侶のような顔をしており、深い皺が刻まれていた。
仁志はそれを指さし、「この石像、何かの神様かもしれないね」と言った。
明は笑いながら「それとも、悪霊の存在か?」と言い返したが、内心では薄ら寒さを覚えた。

ふざけ合いながらも石像の周囲を囲むように立つと、仁志は思わず動揺した。
何かが彼の背後から近づいてくる音が聞こえたからだ。
振り返るも、誰もいない。
ただの風のせいだろうと冷静を取り戻そうとしたが、背筋に冷たいものが走った。
明も気づいたのか、彼らは言葉を交わすのをやめ、無言でその場に立ち尽くした。

その瞬間、石像の目が光った気がした。
驚いた二人は一歩後ずさる。
明が「ちょっと、やっぱり帰ろう」と言った時、仁志は身体が固まった。
「なんか、見えてきた気がする」と、恐る恐る呟く。

二人の視界に映るのは、石像の周りにうっすらと現れた霧だった。
その霧の中から、人間のように見える影が次々と姿を現していた。
それは彼らの知り合いの顔に似ていたが、表情は死相を呈しており、恐怖に満ちた目が仁志たちを見つめていた。

「これ、うちらの知り合いだよね…なんでこんなところに?」明は震えた声で言った。
すると、影は無言のまま近づいてきて、その手を仁志の肩に置いた。
仁志は恐怖で目を見開き、震えながら振り払おうとした。
しかし、彼はその影との接触を避けることができなかった。

その瞬間、仁志と明の心に不安が走った。
彼らの内に潜む罪悪感がまるで自らの存在を押し付けるかのように、次々と圧し掛かってくる。
「これ、どうにかしないと…」仁志は叫んだが、声は周囲の静寂に飲み込まれてしまった。

影たちの姿が明るくなり、二人は最早逃げることができなかった。
影は彼らの周りを囲み、舞い上がるように彼らを取り囲んでは囁き始めた。
「私たちのこと、忘れてしまったの?」その声は、仁志が幼い頃にいじめてしまった友人たちの声だった。
彼らの無念さが結集したかのように、仁志の心に突き刺さる。

その時、気づいた仁志は、抱えていた罪が一気に胸の中から噴き出してきた。
彼は必死に「ごめん」と謝り続けたが、その言葉は影たちに届かなかった。

結局、二人はその公園から逃げることはできなかった。
彼らの心は罪に囚われ、永遠に公園の古木の下へと引き寄せられてしまった。
後日、彼らの行方は誰にもわからず、その公園は静まり返ったまま、また新たな影を待ち受けているのだった。

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