「闇のテラスに咲く影」

彼女の名は梓。
大学生で、ひたむきにアーティストを目指している。
そんな彼女は、ある晩、街の外れにある古びたテラスへと向かった。
そこは町の人々から忘れ去られ、大抵の人は近寄ることも避ける場所だった。
しかし、彼女はそのテラスに秘められた魅力を感じた。

テラスは、灰色のコンクリートでできており、周囲に大きな霧笛の音が響いていた。
周囲には何もなく、ただ風に揺れる草と寂しい音だけが彼女を迎えた。
梓は、ここ에서何か特別なインスピレーションを得られると期待していた。

彼女がテラスに脚を踏み入れた瞬間、異様な静けさが彼女を包んだ。
その場には、誰もいなかったはずなのに、どこからともなく微かな声が聞こえてきた。
耳を澄ますと、その声は「芸術は、闇の中で生まれる」と繰り返していた。
梓の心は鼓動し、その言葉に強く引かれた。

その夜、彼女はその言葉に従って、自分の作品に闇の要素を取り入れようと決めた。
色々な作品を見て、得たインスピレーションを基に、暗闇と対峙する作品を描き始めた。
しかし、その数日後から、奇妙な現象が起こり始めた。

彼女が作品を描くたびに、そのテラスへと出向くと、次第に彼女の周囲は奇怪な出来事が起こるようになった。
例えば、彼女が描いた絵が夜ごとに変わってしまったり、見えない何かが肩を叩く感触があった。
しかし、それがインスピレーションの一環だと考え、彼女は執筆を続けた。

やがて、彼女は「闇を描く」というテーマに没頭し、特別な感情で作品を重ねるようになった。
その過程で、彼女は人間の内面の闇を探求し、どこか自分自身の痛みを紐解いていく感覚を得ていた。
しかし、彼女はそれがどのように自分を襲うか、まだ知らなかった。

ある晩、梓が夢の中で再びテラスに立つと、今度は自分と向き合う二つの影が存在していた。
一つは彼女が描く光の象徴、もう一つは暗闇を象徴する影。
二つの影は彼女に「どちらを選ぶのか?」と問いかけてきた。
彼女はその選択に身動きが取れず、ただ立ち尽くしていた。

翌日、彼女は自分の作品の中にその選択を表す何かを描かねばならないと感じ、再びテラスへと向かった。
徐々に彼女の心の奥に潜む恐れが大きくなっていた。
テラスに到着したとき、いつもの声が耳元で囁いた。
「あなたの選択が全てを決める。」

そして、梓はその声に従い、影を見つめた。
その瞬間、彼女は自身の選択がもたらした代償に気づいた。
彼女の心に潜む暗闇は、自身だけでなく、周囲の人々にも影響を与えていたのだ。
周囲のアーティストたちが次々と、彼女の影響を受ける形でおかしな現象に襲われ、その状況を見過ごせなくなった。

梓は自分の作品を通して、自己の内面の継承が他者の運命に添うものであることを理解し、責任を感じ始めた。
彼女は急いで帰宅し、全ての作品を破棄することを決めた。
彼女の選ぶ「光」とは、責任を背負い直すことであると気づいたからだ。

そして再び、テラスへと向かう道すがら、梓は自分に問いかけた。
「この選択が自分にもたらすものは、果たして何なのだろう?」それでも、彼女の心の底には前に進む勇気が芽生えていた。
彼女は再び光を探し、心の中の闇を受け入れる決意を固めた。
再びテラスに立つことで、自身を継いでいく新たな物語が始まるのだと。

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