彼の名は影狼。
彼はどこか異質な存在だった。
町の深い森に住む彼は、名の知れない獣や人々とも接することなく孤独に生きていた。
しかし、ある晩、彼の運命は一変する。
月明かりに照らされた森の中、突然扉が現れた。
その扉は古びており、周囲の樹々とは明らかに異なる存在感を放っていた。
影狼はその扉に興味をそそられ、近づいてみた。
扉には不思議な彫刻が施されており、彼の目を引いた。
彫刻は二つの顔を持つ者の姿で、互いに助け合うかのように見えた。
しかし、彼はそれが何を意味するのか分からなかった。
この扉の向こうには何があるのだろうか。
影狼は一度入り口に手をかけてみたが、どこかに危険な気配を感じ、ためらった。
その日の夜、月光は森を神秘的に照らし、影狼はその扉のことをずっと考えていた。
彼の心の中で、扉の中にある未知のものへの期待感と、それがもたらすかもしれない恐怖がせめぎ合っていた。
ついに、彼は意を決して扉に手をかけた。
扉は軽やかに開かれ、彼を待ち受けていたのは、まったく別の世界だった。
そこには無限に広がる白い平原が広がっており、どこか非現実的な美しさを放っていた。
しかし、その場の空気は重く、どこか不安な雰囲気を醸し出していた。
影狼は身を引き締め、この場所が何なのかを探ろうとする。
その時、周囲が静まり返り、彼の耳に囁くような声が届いた。
「あなたは選ばれた者、しかしそれには代償が伴う。」
影狼はその声に驚き、周りを見回した。
しかし、そこには誰もいなかった。
彼の心は恐怖と混乱でいっぱいになった。
選ばれた?それが何を意味するのか、彼には分からなかった。
その瞬間、目の前に現れたのは、彫刻の顔を持つ二つの影だった。
一つは暗く、もう一つは光を纏っていた。
「私たちはあなたの選択を待っている。どちらかを選びなさい。」暗い影がそう言った。
影狼は二つの影の姿を見つめながら、何が自分に求められているのか理解しようとした。
「どういうことなの?」影狼は声を震わせて尋ねた。
しかし、二つの影は無言で彼を見つめるだけだった。
影狼は心の中で葛藤を始めた。
「暗闇を選べば、力を得るだろう。しかし、それは他者を犠牲にすることを意味する。光を選べば、愛を得るだろう。しかし、それは多くの試練を伴う。」暗い影が、その声で影狼に告げた。
彼の心は揺れ動いていた。
彼は孤独な存在であった。
力を手にし、周囲を支配したいという欲望が頭をもたげる。
しかし、他者を犠牲にすることはできなかった。
彼は光の影の方に目を向けた。
その瞬間、彼の中に何かが変わった。
彼は念を送り、心の深いところから選択の意思を声にした。
「私は光を選ぶ。」その言葉が響くと、空気が揺れ、周囲が光に包まれていった。
影狼はその瞬間、自身の過去の孤独が少しずつ晴れていくのを感じた。
しかし、同時に何かが失われていくような感覚も覚えた。
彼は自分の選択が新たな試練の始まりであることを知った。
目が覚めた時、影狼はまた元の森の中に立っていた。
しかし、今までのような孤独は心に残らなかった。
彼は新しい存在へと変わり、もう一度扉が現れることを待つことを決める。
再び自分の選択を試すために。