停まった駅のホームには、時間が止まったかのような静寂が広がっていた。
周囲には緑が絡みつく古びたベンチや薄暗い電光掲示板が、かつての賑わいを思わせるものの、今は無人のまま。
数年前に運行が廃止されたこの駅は、訪れる者もほとんどなく、ただ時間の過ぎ去りを待っているようだった。
ある日、勇気を振り絞った大学生の航は、友人たちとともにこの停まった駅を訪れることにした。
彼らは都市伝説が好きで、特に「映るもの」に興味を持っていた。
その駅には、かつて亡くなった乗客の影が映るという噂があった。
興味津々の彼らは、証拠を掴むために、カメラを持ってこの場所を探索することにした。
日が暮れると、駅の周囲は一層の暗闇に包まれ、薄らとした霧が立ち込めてきた。
彼らは懐中電灯を頼りにホームに足を踏み入れるが、静まりかえった空気が彼らを包み込み、何かが起こるのではないかという不安が彼らの心をよぎった。
「本当に映るのかな?」と一人の友人が尋ねる。
航は自信満々に「大丈夫、ただの噂さ」と返した。
しかし、内心ではこの神秘的な場所に対する不安が募っていた。
彼は一歩、また一歩と進み、駅舎の内部に入っていく。
駅舎の中は薄暗く、古びた待合室や雑然としたチケット売り場が時間の経過を物語っていた。
彼らはその中でカメラを回し、「映るもの」を探し始めた。
だが、時間が経つにつれ、何も映らない静寂は彼らを苦しめる。
もしかして、何も起こらないのかと彼らの興味が薄れていく。
その時、ふと航の目にとびこんできたのは、待合室の隅に置かれた一枚の古びた鏡だった。
ひび割れた表面とくすんだ色合いが、彼の心を不安にかき立てる。
しかし、彼は友人たちに向かい、「この鏡、映るかもしれない」と期待を込めて言った。
彼らは一緒に鏡の前に立ち、カメラを向ける。
数秒後、何も映らないと思った瞬間、静けさが破られた。
「助けて…」と不気味な声が響き渡る。
それは明らかに美しい少女の声だったが、どこか冷たさを含んでいた。
彼らは驚愕し、互いに顔を見合わせる。
誰かがここにいるのか?
「もう一度映してみよう」と航は取って返した。
彼はカメラを鏡に向け、再度シャッターを切る。
その瞬間、鏡に映る彼らの後ろに、かすかに人影が現れた。
彼女の顔は浮かび上がり、明らかに悲しみを抱えていた。
しかし、それはどこか不気味で現実感のないものであり、彼らの心に恐怖を与えた。
「もう帰ろう」と一人の友人が不安を訴えた。
その言葉に、航の心も揺らぐ。
だが、興味が勝り、彼はさらに映像を撮り続けた。
映る少女の姿はますます鮮明になり、彼女の口から「助けて…」の声が繰り返される。
航は何が起きているのか理解できず、絶え間ない恐怖に苛まれた。
不意に、部屋の温度が下がり、霧が一層濃くなった。
鏡を通じて彼女の目が航を見つめている。
その瞬間、彼の前に彼女の姿が現れた。
彼女は異次元から這い出してくるかのように見え、その表情には嘆きが溢れ、彼女の髪は不規則に揺らめいていた。
「助けて…私を忘れないで…」彼女の声は尋常ではなく、航の心に直接響きわたる。
彼は恐怖にかられ、もはや逃げ出したい一心だったが、足がすくみ、彼女から目を逸らすことができなかった。
「お願い…助けて!」最後の言葉を残し、少女は霧の中に消えていった。
航は呆然と立ち尽くす。
彼の周囲には再び静寂が戻り、友人たちはパニックになって出口に向かっていた。
航は心の中で彼女の姿を忘れまいと決意する。
駅は再び静まり返り、彼の心には深い傷が残った。
彼は最後までその怪奇の体験を忘れないだろう。
彼が踏み入れた場所には、ただの噂ではない、真実が潜んでいたのだ。