狛は大学を卒業したばかりの若者で、心の奥に芽生えた不安を抱えながら、故郷の小さな村に戻った。
母は数年前に他界しており、家族は彼一人だけになってしまった。
静けさが支配する村は、死者の記憶をいつまでも抱えているかのように、常に喪の空気が漂っていた。
狛は家族の墓参りをするために、帰ったのだ。
村に着くと、かつての友人たちが見送ってくれた。
しかし、彼は人との繋がりに疎くなっていた。
都会での生活に身を委ねていた狛は、いつの間にか温かい絆を忘れてしまったようだった。
誰一人として気にかけていないと感じ、自分の存在が薄れているように思えた。
彼は母の墓前に立ち、心の中で何度も謝罪した。
母が亡くなった後、彼は何もできず、ただ一人で生きることを選んでしまった。
墓の前にお供えをし、手を合わせると、突如、視界の端に何かが動いた気配を感じた。
思わず振り返ると、そこには彼の幼馴染である大輔がいた。
「狛、久しぶりだな」と、大輔は微笑んでいるが、どこか寂しげな表情を浮かべていた。
狛は驚きながらも、心の中に温かい感情が湧き上がるのを感じた。
彼は本当に戻ってきてくれたのだろうか。
「お前もまだここにいたのか?」と狛は尋ねた。
しかし、大輔の微笑みは次第に薄れ、彼の周りには、まるで見えない何かが漂っているように思えた。
大輔は答える。
「私はここにいる。だが、もう肉体ではない。お前の心の中にいるんだ。」
狛はその言葉を理解できなかった。
しかし、彼の心の奥には、喪失の悲しみが根付いていた。
大輔との思い出が次々と蘇り、彼は涙をこぼした。
「ごめん、大輔。お前を忘れたことなんてなかった。それでも、どうしてこうも孤独なんだ?」
大輔の姿は次第にぼやけ、狛は目の前が暗闇に包まれていく感覚に襲われた。
「狛、継がれる絆を忘れないでほしい。私はいつもお前と共にいる。お前が私を思い出す限り、私の気はお前に寄り添うから。」
その瞬間、村の空気が変わった。
ひんやりとした冷気が彼の周りを包み、心の中で囁くように響く。
「気は読むものだ。喪の中で生きる支えを忘れないで。」狛は呟くように思った。
彼は、目を閉じて大輔との思い出に浸った。
彼の声が、さまざまな記憶の中で優しく響く。
数日後、狛は村を出ることに決めた。
母の墓参りを終え、再び日常に戻らなければならなかった。
しかし、彼の心には大輔の思い出が色濃く残っていた。
友人との絆を思い出し、彼が死んでもなお自分の中に生き続けていることが分かったからだ。
別れ際、狛は墓に向かって深く頭を下げた。
大輔の声がその胸の奥に響く。
「いつでも帰っておいで。私たちの絆は、続いているから。」
村を離れると、彼は静かな街の喧騒の中でも、大輔が彼を見守っていると感じた。
喪の痛みが和らいでいくのを感じ、再び新たな気を受け入れることができそうだった。
人との繋がりは、確かに継続していくものであり、決して消え去ることはない。
そのことを、彼はこれからの人生で大切にしていくだろう。