ある日の午後、静かな町の一角にある古い着物店が、閉店の準備をしていた。
その店の名は「夢の着物」。
ここには、着物を着ることが好きな人々が集まり、魅惑的な柄や色に心を奪われていた。
しかし、店の経営者である鈴木美咲は、最近不穏な噂を耳にするようになった。
「夢の着物」に触れた人々が次々と消えてしまうというのだ。
美咲はその噂を気にしないふりをしていたが、毎晩、夢の中で無くなった人々が現れるようになった。
彼らは、恨めしそうな表情で「助けて」と訴えるのだった。
美咲はこの夢の意味を理解しかねていたが、日に日に心の中に不安が募っていった。
ある晩、美咲が夢の中でまた一人の顔を見かけた。
彼の名は田中健二。
彼は幼馴染で、以前は良く一緒に遊んでいた仲だった。
しかし、彼は数ヶ月前に行方不明となり、町の人々の間でも話題にされていた。
「美咲、私を覚えているか?」健二が優しく微笑む。
「着物店にあるものを見に行って。私の代わりに、そこに行ってほしい。」
その言葉が響くと共に、目が覚めた美咲は、健二の言葉に心を躍らせた。
何か大切なことを解明する手がかりになるのではないかと思った。
翌日、彼女は思い切って着物店に行くことにした。
店にたどり着いた美咲は、薄暗い店内に突入した。
店主は不在のようで、静けさが漂っていた。
美咲は、さまざまな着物を見ながら健二が言っていた「見に行って」との言葉を胸に感じていた。
そして、奥の部屋に足を踏み入れると、一つの古びた着物が目に飛び込んできた。
それは、華やかな柄で、どこか懐かしい雰囲気を醸し出していた。
美咲はその着物に手を伸ばし、触れてみた。
すると、瞬間、彼女の周囲の景色が歪み、暗闇に包まれた。
それから、力強い怨念のような声が聞こえた。
「私を抱いて、ここから消さないで!」
驚きながらも美咲は、着物を抱きしめることしかできなかった。
彼女の心臓が激しく鼓動し、周囲の空間は目の前で渦を巻いていく。
気がつくと、美咲は自分の背後に健二の声を感じた。
「消えてしまうのではないか、早く私を助けて。」
その瞬間、美咲は決意した。
彼女は過去を甦らせようと着物をさらに強く抱きしめた。
すると、周囲が再び明るくなり始め、美咲は夢の中での約束を思い出した。
「友達になって、私を忘れないで。」
彼女は健二の声を胸に、着物の中に抱かれているような感覚を抱きながら、彼の存在を感じ取ろうとした。
その時、暗闇が驚くほど強くなり、店内がゆっくりと元に戻り始めた。
周囲が元通りになり、美咲は未だに着物を抱えながら、意識を取り戻した。
その後、町中では行方不明の人々が姿を現し始め、健二も無事に戻ってきた。
美咲も彼に再会し、着物店の噂はやがて消えていった。
しかし、彼女の心の中には、時折響く「助けて」という低い声が残ったままだった。
彼女はその声と永遠に向き合うことが運命であると、深い感情を抱えながら生きていくのだった。