ある町の片隅にある古びた公園、そこにはいつも華やかな花が咲いていた。
しかし、その美しい花々には、決して人々が近づかない理由があった。
その公園にまつわる奇妙な噂は、町の人々の間で静かに広まっていた。
公園の近くに住む佐藤亮は、幼い頃からその公園で遊ぶのが大好きだった。
しかし、ある日、友人の田中美咲が公園で不思議な体験をしたことをきっかけに、亮の心には不安が芽生え始めた。
美咲は、「公園の花を触ると、誰かの声が聞こえるよ」と言った。
周囲の人々は笑ってそれを受け流したが、亮は彼女の言葉が気になって仕方がなかった。
日が経つにつれ、公園の花がもたらす友人の声に対する興味は、亮の心に強い好奇心を抱かせた。
そしてついに、彼は美咲と一緒に公園へ行くことを決意した。
夜、二人は月明かりに照らされた公園に足を運んだ。
風が優しく吹き抜ける中、その花は不気味なまでに美しく咲き誇っていた。
亮は大きな声で、「花よ、話しかけて!」と叫んだ。
しかし、周囲は静まり返り、彼の声だけが虚しく響いた。
美咲は静かに花に手を伸ばし、「私はあなたの友達になりたい」と言った。
その瞬間、花の周囲に淡い光が集まり始め、普通ではない現象が起こった。
突然、花の中から女性の声が響き、「私はここにいる」と囁いた。
驚いた亮は思わず後ろに退いたが、美咲はその声に引き寄せられるようにして、花に手を伸ばし続けた。
亮は彼女を止めようとしたが、その瞬間、彼の目の前で美咲が花をぴりっと触れた。
すると、彼女の表情が一瞬で変わり、どこか遠くを見つめるようになった。
「美咲!」と亮が叫ぶと、彼女は薄く微笑み、まるで夢中になっているかのようだった。
その時、花の中から不気味なエネルギーが流れ出し、亮の身体を包み込んだ。
彼は力強く彼女を引き戻そうとしたが、怖れにとらわれ、力が抜けてしまった。
「何が起こっているんだ!」と叫ぶ亮に、美咲はかすかに振り向き、言った。
「彼女は友達を求めている。私が彼女の友達になってあげる。」その瞬間、空間が暗くなり、周囲の花がまるで生きているかのようにざわめき始めた。
亮は恐れを抱きながら公園の明るい花々から逃げようとしたが、足は動かず、自分の意志が通らなかった。
美咲は、花に包まれたまま、ゆっくりと透明になっていく。
そして、次第に周囲の空間も美咲を飲み込んでいった。
亮は彼女を追いかけようとしたが、どうしても動けなかった。
「友達になってあげて!」と美咲の声がこだまする。
亮は絶望と恐怖感に圧倒され、声を振り絞る。
「美咲、お願い、戻ってきて! 俺はお前を失いたくないんだ!」
だが、彼女の笑顔は次第に薄れ、最終的には公園から完全に消え去ってしまった。
その瞬間、周囲の花は見たこともないくらい鮮やかに輝き、亮はその空間に一人だけ残された。
心が引き裂かれるような思いを抱えたまま、彼はその場に立ち尽くしていた。
翌朝、亮は町の新聞で美咲の失踪を知ることになる。
「公園で友達を求めた美咲、元気な女の子が消えてしまった」という見出し。
その後、公園は誰も近づかない場所となり、奇妙な噂はより一層広まり続けることとなった。
亮は心の奥で美咲の声を聞き続けた。
「友達になって…」という彼女の声が、花の中で静かにささやかれているように思えてならなかった。