「試練の影」

藤田は、昔からの友人であった抱と久しぶりに再会することになった。
二人とも大学を卒業し、それぞれの道を歩んでいたが、共通の趣味である怪談を語り合うため、心待ちにしていた。
しかし、抱はこの数年間、あまりにも多忙な毎日を送っており、彼の心の中にはある不安が沈んでいた。

約束の日、藤田は周囲の静かな山間にある古びた居酒屋で抱を待っていた。
酒場の周囲には何もなく、薄暗い明かりが一段と緊張感を増していた。
一人で待っている間、藤田は周りの様子を観察し始めた。
静寂に包まれた空間、薄暗い影が彼をじっと見つめているようで、胸の内に不安が芽生えた。

遂に抱が現れ、彼は安堵の表情を浮かべた。
二人は居酒屋の奥にある個室に入ると、冷酒を軽く傾けながら、懐かしい思い出話を始めた。
しかし、その中で藤田は、友人の様子にある違和感を感じ取った。
抱は何かに怯えるような目をしており、話し方もどこかおかしかった。

「実は最近、変なことが続いているんだ」と抱が言った。
その口調には緊迫感が滲んでいた。
藤田はその言葉に興味を引かれ、彼に詳しく話してもらった。

抱が語ったのは、彼が近所の友人から聞いたという「試し」の話だった。
ある日、その友人が神社で心霊体験をしたことがきっかけで、彼自身も同じ場所で「試し」を行うことを決意した。
しかし、その試しはとても危険なもので、特定の時間に神社に行き、自らに試練を与えるという内容だった。

抱はその試練の結果、何かが彼に取り憑いたと語った。
彼の周囲では不可解な現象が頻発し、物が消えたり、奇妙な声が聞こえたりするようになったという。
藤田は友人の冗談だと思ったが、抱の真剣な眼差しに少しずつ恐れが増していった。

試みは失敗であり、抱の言う「が」彼に巣食った何かが、徐々に彼を蝕んでいるのではないかと、藤田は感じ取った。
彼は再び問いかける。
「それなら、どうすればいいんだ?」抱は答える。
「もう一度、あの神社に行かなければならない。私の身に起こったことを再現しなければ、この現象は終わらないんだ。」

藤田はためらった。
そんな危険なことをする気にはなれなかった。
しかし、友人の命に関わることだと考えると、彼は彼を放っておけなかった。
二人は翌日、神社へ向かう決意を固めた。

深夜、神社に赴くと、藤田は周囲の怖さに圧倒されていた。
黒い木々が薄暗い月明かりの中、そびえ立っている。
抱は不安そうに口を開き、行動を始めた。
彼は神社の祭壇の前にしゃがみ、自らに試練を課す。
この場所で何かが起こることが分かっていた。

試みが始まり、抱は目を閉じ、何かを呼び寄せるようにして祈った。
すると、周囲の風が急に強まり、辺りは寒さで凍りついた。
その瞬間、藤田は薄暗い影のようなものが抱に近づいているのを感じた。
彼は驚愕し、声を上げることすらできなかった。

「藤田、助けて!」抱の叫びが響き、彼の身体は不気味に歪み、尋常じゃない力で押し返されるように思えた。
再び何かに引き寄せられ、彼は恐怖のあまり後ずさった。

目の前の影は抱の姿を奪い、彼の心の奥に潜む何かが浮かび上がってくる。
藤田は恐れを振り切り、抱に近づこうとした。
その時、神社の空気が一変し、何か重いものが二人の心を包み込んだ。

「俺は試す者。外に出てはいけない…」その声は、抱から発せられていたが、まるで彼の口を借りた何かが語っているようだった。
藤田は思わず身震いし、背筋が凍りついた。

ついに抱は、その脆弱な心を開き勇気を出し、何かに立ち向かう決意を固めた。
「私は絶対に負けない!」彼の叫びが神社の闇を切り裂き、力強い意志を感じた。

次の瞬間、冷気が消え、暗闇が晴れた。
藤田は驚愕の中で、その場に立ち尽くしていた。
そして、抱の姿が目の前に無事に戻ってきた。
そして、彼は再び笑顔を浮かべた。

不安が消えたかのように感じながら、二人はその神社を後にし、普通の夜に包まれて戻った。
しかし、それは始まりに過ぎなかった。
人間の心の奥深くに存在する試練と恐怖は、実は途切れることなく続いているのだと、藤田は心に刻んだ。

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