「闇に潜む声」

薄暗い山道を進むと、廃れた小学校が姿を現した。
かつての喧騒は消え去り、今はただ静寂が支配する場所。
田村はその校舎の前に立ちながら、心の中に不安を抱えていた。
しかし、彼は友人たちと肝試しに来ていたので、強がりを見せることにした。

「大丈夫だ、夜になっても怖くないさ。」

だが、彼の言葉には自信がなかった。
この場所には、昔から語り草となっていた「闇の男」の伝説があった。
人々は「闇」と呼ばれる存在を恐れ、近づこうとしなかったという。
田村たちはそんな伝説を笑い飛ばしながらも、ついにその小学校の中へ足を踏み入れた。

校舎の中は異様な静けさに包まれていた。
廊下の薄暗い隅々には、昔のままの机や椅子が散らばっている。
田村はその場の不気味さに思わず身震いした。
友人たちも同様の反応を見せていたが、肝試しという好奇心が勝る。

「奥の教室に行こう!」と一人の友人が提案する。
田村は渋々その提案に従い、みんなで教室へ足を進めた。
教室のドアを開けると、奥から不気味な冷気が流れ込んできた。
教室の窓はすべて閉じられ、外の明かりは一切入ってこない。

「おい、ここにいたら何か起きるぞ!」と田村が言うと、友人たちは笑いながらそれを無視した。
しかし、その瞬間、教室の隅から黒い影がひゅうと現れた。

「だ、誰かいるのか?」と友人が声を震わせる。
すると、影は続けざまに近づいてきた。
闇の中から顔が見えない男が浮かび上がり、「君たちは平和の場に来てはいけない」と告げた。
田村たちは恐れおののきながら後ずさりする。

「逃げろ!」田村は叫び、友人たちを引き連れて出口へ向かった。
しかし、廊下が崩れそうなほどの恐怖に包まれ、思うように動けなかった。
「やだ、動けない!」と一人の友人が叫ぶ。
その瞬間、彼の目の前に「闇」が迫ってきた。

「お前たちは何をしに来た?」と低い声が響く。
「この場所を荒らす者には、審判が下る。平和を乱す者には、何も容赦はない。」男の生気のない目が、田村たちをじっと見つめる。
彼の声は徐々に周りの空気を重くし、圧倒的な圧力をかけてきた。

田村は思わず一歩後退り、その後ろにいた友人がさらに後ろに倒れ込もうとしていた。
「ああ、逃げろ、早く!」田村は心の中で叫ぶが、その言葉は届かない。
闇の男はじわじわと近づき、何かを口に含み、田村たちを睨みつけた。

「君たちがここにいる限り、何が起こるかわからない。私はこの場を守る役目を持っている。闇の中で決して忘れられてはいけない者なのだ。」その言葉は田村の心に深く刻まれ、逃げ出す道が封じられていく。

その瞬間、異様な音が教室の隅から響き渡った。
奇妙な声が「助けて、助けて」と繰り返される。
その声は一人の少女のものだった。
田村はその声に導かれるように、再び廊下へ飛び出した。
友人たちもその声に引き込まれ、闇の男から逃れようと必死になった。

しかし、出口は遠のくばかりだった。
田村は恐怖のあまり、走り続けた。
でも、彼の心の中には一つの疑念が生まれていた。
この「闇の男」は、何かの守護者なのか?それとも彼らを恐怖で支配する存在なのか?田村たちはその疑念を抱えながら、校舎を走り続けた。

校舎の外へ出ると、夏の夜空に星明かりが輝いていた。
しかし、彼らの背後には暗黒の影が迫ってきていることに気づいていた。
田村は振り返り、叫んだ。
「行くぞ、みんな!これ以上はもう耐えられない!」彼らはその声を合図に、一斉に出口を目指した。

だが、その時、後ろから響く声が再び聞こえた。
「忘れないでほしい。ここは誰にも閉じない場所。未来に何を残すのか、考えるがいい。」その声は闇に溶け込みながら、漠然と不気味さを引きずるように消えていった。

その後、田村たちはなんとか校舎を離れ、村へと戻った。
しかし、彼らはその体験から逃れることができなかった。
夜の静けさが彼らの心に残り、決して忘れることのできない「闇」の記憶が、この先も彼らを追い続けるのだろう。

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