村の外れにある古びた神社。
その神社には、「鳴りやまぬ笛」という伝説があった。
夜になると不気味な音色が響き渡り、それを聞いた者は次第に頭が狂い、最後には姿を消してしまうというのだ。
この現象は、約百年前に起きたある出来事に起因していた。
その昔、神社の祭りで使われた笛は、村の若者・健太が作ったものであった。
健太は村人たちから非常に愛されていたが、彼には幼いころから別の世界と繋がる特異な能力があった。
それは、亡くなった人々と会話し、彼らの声を聞くことができるというものだった。
彼はその能力を使って、人々の悩みを聞いたり、時には亡霊たちに導かれて祭りの準備を手伝うこともあった。
しかし、ある晩のこと、彼は一人の霊と出会った。
その霊は、彼がまだ小さな頃に自ら命を絶った村の少女で、名を「美鈴」と名乗った。
美鈴は悲しそうに語り始めた。
「健太、私を忘れてはいけない。私の唯一の願いは、この村がもう一度平和になること。」
彼女の言葉に心を打たれた健太は、過去の悲劇を忘れさせるために、村人たちへ何か力強い形で思い出させる必要があると感じた。
そうして生まれたのが、神社の祭りで奏でる「笛」だった。
彼は美鈴のために心を込めて笛を作り、その音色でみんなを惹きつけ、村を盛り上げようとした。
しかし、美鈴の霊は次第に彼に取り憑き、彼の心の中で暴走を始めた。
彼女の思いは、健太の創作活動を通じて村人たちに伝えられたが、彼女自身の悲しみは消えなかった。
そのため、健太は次第に苦悩し、心の中で彼女を抱えきれなくなった。
ある夜、祭りの最中に笛を吹いたとき、村全体に美鈴の悲痛な叫びが響き渡った。
村人たちはその音に耳を傾け、恐怖で凍りついた。
その瞬間、健太は身を震わせ、「もういい。お願いだから、私を解放して!」と叫んだが、美鈴の悲しみは彼から離れなかった。
健太が悲鳴を上げると、観衆は彼を恐れて距離を取った。
彼の背後から響く笛の音は、次第に狂気の笑い声に変わり、村人たちを恐怖へと導いた。
音は村全体を覆い、村の人々は逃げ惑った。
その場にいた者の中には、時間が止まったようにして強制的にその場に留まった者もいる。
後のことだが、健太の行方は朧げなまま消えていった。
神社周辺では、今でも「鳴りやまぬ笛」の音が響くという噂が立ち、その音を聞いた者は、健太のようにかつてこの村に住んだ者からのメッセージにさらされることになる。
数年後、時が巡り、若い夫婦がその神社の近くに引っ越してきた。
彼らには小さな娘、響がいた。
ある晩、響はひとりで神社の方へ遊びに行った。
そこで、彼女は見えない笛の音に耳を傾け、心を奪われた。
笛の音に魅了された響は、神社の中で踊り、唄い始めた。
だが、次の瞬間、響はそのまま姿を消してしまった。
村人たちは、また一人の子供が消えたことに恐れを抱き、神社を遠ざけた。
しかし、彼女のことが忘れ去られることはなかった。
今でも、その神社の近くで子供たちが遊んでいる最中、風に乗って消えた子供たちの笑い声が聞こえるという。
そして、時折その音に征かれる形で一人の少女が現れる。
それは、かつての健太と、美鈴の思いが交わる場として、永遠に続いてしまったのだ。