薄暗い村の端に、古びた祠があった。
この祠には、長い間村人が大切にしてきた巫女が住んでいた。
彼女の名前は絵里。
絵里は無邪気で優しい性格であったが、その背後には神秘的な力を宿していた。
村では病や不幸を避けるため、彼女の助けを求める者が絶えなかった。
しかし、その力には代償があることを、村人たちは知っていた。
ある年、村に異変が起こった。
田畑が荒れ果て、作物は不作となり、村人たちの不安は日に日に増していった。
そんな時、村に現れた男性が、絵里に一つの願いを託けた。
彼の名は修司。
彼は一心に愛する女性、あかりを救うために祈願した。
あかりは病に侵され、余命わずかという状況だった。
絵里は修司の切なる願いを受け入れ、特別な儀式を行うことにした。
しかし、その儀式は禁忌とされる「呪」の力を込めたものであり、彼女自身にも深い影響が及ぶことが予想された。
絵里は悩みながらも、修司の純粋な愛に心を動かされた。
彼女は自らの血を使い、あかりの病を癒す呪を唱え始めた。
儀式の中、絵里は異様な力が体を貫くのを感じた。
血が流れ落ち、その鮮やかな赤が大地にしみ込む。
彼女の声は次第に高まり、音もなく小さな雷が発生した。
しかし、その瞬間、異変が起こった。
絵里の背後に、何かが立ちはだかった。
それは、彼女が知らぬ間に解き放たれた呪の影であった。
修司はその光景を見て恐れおののいた。
「何をしたんだ、絵里!」声を震わせながら彼は叫んだ。
絵里は冷静さを失い、振り返ることさえできなかった。
その呪の影は、不気味な笑みを浮かべ、彼女の心に潜り込んでいく。
まるで彼女を呑み込もうとしているかのようだった。
儀式が終わると、あかりの病は確かに治った。
村中が喜びに包まれたが、絵里はどこか不気味な静けさを感じていた。
彼女の心には、暗い影が根付いてしまった。
彼女は自分が解き放った呪の影に恐怖を覚え、それが願いを叶えた者たちに必ず何らかの形で影響を及ぼすことを知った。
時が経つにつれ、絵里は村人たちを助けることができなかった。
彼女の心に訪れた呪は、彼女自身の命を蝕むものだった。
毎晩、彼女の夢の中に現れる影は、彼女に選択を迫っていた。
「私を放て、さもなくば代償を払え」という言葉が響き渡る。
絵里は再び修司の元へ向かった。
「私のせいで、あなたたちは今後も不幸に見舞われる」という恐怖が彼女を襲った。
「私はあなたの愛を救ったが、呪は私を奪う」修司は絵里を支えた。
「大丈夫、あなたは私を救ってくれた。私はアカリを助けたとしても、あなたを失いたくない」と言った。
しかし、その日以降、村には次々と不幸が襲いかかった。
田畑は枯れ、村人は病に倒れ、次第に絵里に対する不満が高まっていく。
絵里は、彼らの目に恐れが映るのを見て深い悲しみに沈んだ。
羨望の眼差しと共に、恐怖が芽生え、彼女自身も呪を抱え込んだ。
ある日、耐えかねた村人たちが、絵里を祠から追い出した。
「呪を解いてくれ」と叫びながら、彼女はただ立ち尽くしていた。
それが呪のおかげであかりが救われたことを彼らは忘れてしまったのだ。
絵里はその場から逃げ出し、森の奥深くへと消えていった。
しかし、彼女の存在は村に薄く残り続けた。
村人たちは噂する。
「呪われた巫女が、今もどこかにいる」と。
村が不幸に見舞われるたび、彼らの心には不安が募り、その影に怯える。
絵里の姿は見えないが、彼女の呪は未だ村に留まり、永遠に影を落としていた。