夏の終わり、ある静かな村に住む高校生の裕一は、自宅の裏山にある古い神社の噂を耳にした。
それは、村から少し離れた場所にあり、誰も近づかない不気味な場所だった。
神社には「生きた人間を献じないと、闇に飲まれる」という言い伝えがあった。
裕一は友人たちと肝試しをすることに決め、神社に向かうことにした。
その晩、彼は一人で神社にたどり着いた。
月の光が雲に覆われ、周囲は薄暗かった。
神社の境内は静まり返り、冷たい風が木々を揺らす音しかしなかった。
裕一の心臓は高鳴り、彼は恐怖を感じながらも、好奇心に駆られて神社の中に足を踏み入れた。
薄暗い神社の中を進むうち、彼は何かの気配を感じた。
突然、背後から冷たい風が吹き、ふと振り向くと、誰もいないはずの境内に、一人の女性が立っていた。
彼女は白い服を着ており、顔はぼんやりと影に隠れている。
裕一は恐る恐る近づくと、彼女は静かに彼の目を見つめ返した。
その瞬間、裕一は胸が締め付けられるような恐怖に襲われた。
女性は口を開け、低い声で「生け贄を捧げなければ、闇が襲いかかる。」と言った。
裕一は思わず一歩後退り、逃げ出したい気持ちが芽生えた。
しかし、体は動かなかった。
女性の目には何か引き寄せるような魔力が宿っているように感じた。
その後、裕一は神社を後にし、友人たちと合流する約束をしていた公園に向かった。
だが、何故か友人たちの姿は見当たらなかった。
焦る気持ちが彼の心を締め付け、辺りがさらに暗く感じる。
心の中にひとつの考えが浮かんできた。
友人たちが神社に行ってしまったのではないか。
裕一は再び神社へと向かうことにした。
神社に到着すると、異様な静寂が彼を包んだ。
ふと、目の前に立つ神社の奥に、何かがちらりと動いた。
裕一が目を凝らすと、友人の翔太が倒れているのが見えた。
裕一は急いで彼の元へ駆け寄り、揺さぶった。
「翔太、しっかりして!」だが、翔太の目は虚ろで、返事もなかった。
次第に、裕一の周囲には奇怪な現象が起き始めた。
闇が彼を包み込み、奇妙な囁きが聞こえる。
「再び、生命を捧げよ。」それは、先ほど見た女性の声に似ていた。
裕一は恐怖で身動きが取れない。
目の前に現れた女性の姿は、よりはっきりとした形を取り、義務的に彼に向かって手を差し伸べてきた。
裕一は思わず振り返り、森の奥へと逃げ出そうとした。
しかし、彼を引き止めるように地面から黒い影が忍び寄り、彼の足元に絡まる。
裕一は必死に自分を奮い立たせ、少年の純粋な恐怖心を原動力に闇を振り切ろうとしたが、やがてその力は限界を迎えた。
彼は、自分が何を選ぶこともできないと悟った。
黒い影が彼を包み込み、最期に彼の口からは悲鳴が漏れた。
「生きて帰りたかった…」その言葉は、夜空に消えゆくように消えた。
その後、村では裕一と翔太の行方がわからなくなったという噂だけが残り、古い神社への興味はますます薄れていった。
しかし、彼らの身に何が起きたのか、知る者はいなかった。
「生け贄を捧げる者が現れるまで、闇は静かに待ち続ける」のだと、村人たちは誰もが思っていた。