「闇の扉の向こう」

深い闇に包まれた夜、藤田美咲は薄暗い地下室に足を踏み入れた。
ここはかつて祖母が住んでいた家の一角であり、長い間忘れ去られていた場所だった。
埃っぽい空気が充満し、彼女は嫌な予感を覚えながらも、祖母が生前に話していた呪いの話を確かめるために来たのだ。

地下室の中央には古びた扉があり、周囲は薄暗く気味が悪い。
美咲はその扉に近づき、背を貫く寒気に思わず振り返った。
彼女の心に恐れが広がり、何かがこの扉の向こうに待っているような気配を感じる。
祖母はこの扉を開けることを禁じていた。
「絶対に開けてはいけない。闇の中には、決して触れてはいけないものがいる。」その言葉が頭に響く。

だが、美咲の好奇心はそれらの警告を無視しさせた。
彼女は手を伸ばし、扉の取っ手に触れた。
冷たく、何か生き物のように感じた。
心臓が高鳴り、彼女は一瞬躊躇したが、意を決して扉を引いた。
ぎぎぎと音が響き、重たい扉はゆっくりと開いた。

目の前には広がる暗闇。
その中から、何かの気配を感じた。
美咲は、そこに何が潜んでいるのか確認するため、懐中電灯を取り出し、その光を闇の中へと向けた。
すると突然、目の前に人影が現れた。
それは古い着物を身にまとった女性で、まるで美咲をじっと見つめているかのようだった。
肌は死んだように白く、目は深い闇の底に沈んでいる。

「あなたは…誰?」美咲は声を震わせながら問いかけた。
その女性は微笑みながら答えることなく、ゆっくりと美咲の方へ近づいてきた。
恐怖が彼女の中で膨れ上がり、美咲は後ずさりした。
しかし、女性の目は決して美咲から離れなかった。

「私を呼んだのはあなた?」女性は低い声でささやくように言った。
美咲はその言葉に驚き、彼女がこの扉の向こうで求めていたのは自分自身であると気づいた。
「私は…呼んでいない!」

すると、女性の表情が一変した。
その顔が歪み、闇に溶け込むように変わっていく。
「あなたは私を招いたのよ。呪いはあなたの中に生きている。」

美咲は意識が遠のくのを感じながら、必死に逃げようとした。
しかし、背後から何かが彼女の体をつかんだ。
もはや何もできず、彼女はその場にひれ伏した。
暗闇の中に包まれる感覚が押し寄せ、女性は彼女の耳元で「私を助けて」と囁いた。

その瞬間、美咲は過去の記憶が引き寄せられるように蘇ってきた。
祖母の死、家族の不幸、全てが呪われたように思えた。
そして、何よりも彼女が無意識に拒み続けてきた「闇」は、実は自分自身が抱えていた苦しみだったのだと気づいた。

「呪は生に宿る…貴女は私の一部。」女性の低い声が再び響き、同時に美咲は身震いした。
彼女はこの闇を受け入れ、自身の中の恐れと向き合うことが求められているのだ。
だが、恐怖がそれを許さなかった。
彼女は恐ろしい力に引き寄せられ、意識が薄れゆく。

その瞬間、扉が閉じ、地下室は静寂に包まれた。
ただ、闇の奥には未だにその女性の微笑が浮かんでいた。
美咲の声は消え、周囲には再び静寂が訪れた。
闇は再び何も語らない。
ただ、その中に宿る呪いが新たな宿主を待ち続けている。

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