学が舞台の静かな街外れに、ひとつの古びた校舎があった。
その校舎は、何年も前に廃校となり、後に人々の記憶からも忘れ去られていた。
しかし、近隣の子供たちの間では「怪校舎」という不気味な噂が流れていた。
曰く、そこには「焉」と呼ばれる幽霊が住んでおり、特に夜になると現れるという。
ある日、大学生の健太は友人たちと心霊スポット巡りを計画した。
得意げな笑顔を浮かべる友人の中に、何でも挑戦する勇敢な友人がいた。
彼の名前は亮。
亮はいつも健太を誘って、肝試しをしては好奇心を満たしていた。
今回は、その「怪校舎」を訪れることに決まった。
日の入りを迎え、辺りが薄暗くなる中、彼らは校舎の前に立ち尽くした。
立派だったであろう外観は、傷みと苔に覆われ、不気味さを漂わせていた。
健太は少し緊張しつつも、友人たちと共に校舎の中へと足を踏み入れた。
廊下を進むにつれて、空気が一層重く感じられ、誰もがその異様な雰囲気を感じていた。
「こんな場所、ただの噂だって」と言い聞かせながらも、心臓が高鳴るのを抑えられなかった。
亮は見せつけるように、フラッシュライトを照らしながら、「ここの幽霊が見たいんだろ? 絶対にいるって!」と楽しそうに言った。
数分後、彼らは体育館に辿り着いた。
かつては声が響いていたであろう広い空間だが、今は静寂がただ広がっていた。
突然、彼らの耳にかすかに誰かの声が響いた。
「覚えているかい?」その声は子どもたちのもののようで、悲しげな響きが心を打つ。
「覚えているかい?」そう繰り返す声に、全員が一瞬たりとも動けなかった。
すると、ふいに亮が指をさしながら「見ろ!」と叫んだ。
彼の言う先には、薄く滲むような人影が浮かび上がっていた。
それは一人の少女の姿だった。
彼女の顔はややぼやけており、まるで現実と夢の狭間にいるかのようだった。
彼女は笑顔を浮かべながら、何かを伝えようとしていた。
「怖くないよ…一緒に遊びたいの」と彼女は言った。
その言葉に、健太は恐れと驚きで混乱し、思わず後退ってしまった。
一緒に遊ぶという言葉が、なぜか彼の脳裏に暗い過去の記憶を呼び起こしたのだ。
「ここの校舎は…昔、私たちがずっと過ごした場所。でも、私たちはもうここにいないの」と少女は続けた。
その瞬間、健太は彼女がかつてこの学校に通っていた生徒だということを直感した。
彼女の明るさの奥に隠された悲しみが、胸を締め付ける。
亮は興奮気味に彼女に近づこうとしたが、突然、その少女は顔を険しくし、「私を忘れないで…」と言い残して消えてしまった。
まるで、彼女が何かを伝えるための最後の手段だったかのように思えた。
周囲の冷気が急に強くなり、彼らはただ恐怖で目を見開いていた。
一行は急いで校舎を脱出しようとしたが、そのとき、健太の心の中には少女の言葉が強く残った。
「忘れないで…」それが意味するものは、彼女の存在、その悲しみ、そして同じように学校で過ごした仲間たちへの想いが込められているのかもしれなかった。
帰り道、健太は胸の内に秘めた問題に直面することになる。
あの校舎での出来事は、ただの恐怖心だけではなく、彼に何を覚えておくべきなのかを教えるためのものであった。
彼は、忘れ去られた存在を思い、今後の自分の行動にその教訓を生かすことを決意した。
その後、健太は友人たちに「焉」の話をし続けた。
彼らは彼の目を通して、過去の物語を知り、決して忘れないことの重要性を理解することになった。
時が経つにつれて、かつての校舎は町の一部として人々の心に息づいていた。
忘れることが恐怖そのものであることを、彼は深く理解するようになったのだ。