「運命を背負う館」

古びた館は、郊外の静かな場所に佇んでいた。
外観は一見、普通の古民家に見えたが、その内部には異様な雰囲気が漂っていた。
訪れた者が皆、どこか不安を感じるような、そんな場だった。
この館には伝説があった。
「書かれた者の運命を背負う」という、人々が恐れをなす言い伝えだ。

その館に招かれたのは、大学の友人である加藤、田中、佐藤の三人だった。
彼らは館の古い記録を調べるために、夜間の探索を決行することにした。
周囲が薄暗くなるにつれ、興味とは裏腹に少しずつ緊張感が高まっていく。
「大丈夫だ。何も怖がることはないさ。」と加藤は自分を勇気づけるかのように言ったが、田中と佐藤はその様子を見て不安を感じた。

彼らは館の中に足を踏み入れた。
薄明かりの中、埃をかぶった家具や古い書物が並ぶ部屋が広がっていた。
彼らは一冊の古い書に目を引かれる。
それは、館の歴史やこの場所で起きた出来事が書かれた本だった。
何気なくページをめくるうちに、佐藤が不意に声を上げた。
「これ、すごく古い。何か不気味なことが書かれてるよ。」

書にはこの館に住んでいた家族の血の呪いが記されていた。
この家族が、過去に人々を裏切り、虐げていた様子が詳細に記録されていたのだ。
恐る恐る田中が言った。
「この書、まるで誰かを呼び寄せているみたいだね。」その瞬間、書が僅かに震え、微かなひび割れた音が響いた。

「やめとこう、こいつはやばい。」加藤がそう言ったが、好奇心に勝てず、佐藤は最初のページに目を戻した。
「この家族は、誓いを破る者には罰が与えられるって書いてある。」その言葉に、館の空気が重くなる。
また、彼の頭の中に思い浮かんだのは、何度も耳にした都市伝説だった。

すると、突然、館の廊下から「アングリィ」という低い声が響いた。
三人は驚愕し、恐れおののいて目を合わせる。
「何だ、あれは?」田中が息をのみながら尋ねた。
加藤が「確認しに行こう」と強気に言ったが、内心では恐怖が渦巻いていた。

彼らは声のした廊下へ進み、その先にあった部屋へ入った。
すると、中には何もなかった。
しかし、その壁には意味不明な文字が、血のようなもので書かれていた。
それは、「来るべき者の名を書け」というように見えた。
田中は恐怖に駆られ、「これ、絶対におかしい」と呟いた。

そのとき、書の中に書かれていた家族の名前が、次々と彼らの心の中に浮かび上がる。
「ここで何かをしてはいけない、そうだろ?」加藤が言うが、彼の声はもはや震えていた。
佐藤は確かに目を見開き、文字の意味を理解する。
彼らがこの館に来た理由が、実は自らの運命を解き放つためだったのだ。

再び、館の空気が変わると、加藤が噛みついた。
「運命だろ、そんなの信じられるか!?」彼らの間にひどい緊張が生まれた。
暴力的な思念が心に襲い掛かる。
田中はさっき見た血の文字を思い出し、ふと自分を問いかける。
「この運命から逃げることはできないのか?」

その瞬間、書の開かれたページが一斉に変わり、館全体に振動が生じた。
古い木のきしむ音が響き、光が漩渦を描く。
三人は背後から吹き荒れる強風に押し寄せられ、姿を消した。

翌朝、館の前には彼らの姿はなかった。
ただ風に舞う埃の中に、古い書物が一冊、静かに置かれていた。
それは、館の新たな歴史の一部となることを示すかのように、著された文字の中に彼らの名を隠していた。

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