「悔いの声が響く山」

田舎の奥深い山の中に、ひっそりとした村があった。
その村は、昔から不思議な出来事が多く語り継がれていた。
特に、山の奥で語り草となっている伝説があった。
そこに住む者たちは、決して近寄ることを避ける場所だった。
しかし、若者の中にはその伝説に挑む者もいた。

ある日、村で噂になっていた大学生、健二とその友人の由美は、好奇心からその場所を訪れることにした。
山の奥深くへ進むにつれて、周りの空気は静まり返り、どこからともなく不気味な声が聞こえてくるようだった。
「おいで…おいで…」その声はささやくように響き、まるで誰かを呼んでいるように思えた。

「健二、これ妙じゃない?帰ろうよ。」由美は不安になり、立ち止まった。
健二は笑い飛ばした。
「大丈夫だよ、ただの風の声さ。何も気にすることはないよ。」それでも、彼女は心の中で恐怖が募るのを感じていた。

二人は進むにつれて、声はますます大きくなり、「悔いがあるのか?」という言葉に混ざって、彼らの心に不気味な感覚をもたらした。
まるで、誰かが彼らの過去を知っているかのように、心の奥底に隠していた後悔を引き出そうとしている。

「やっぱり帰りたい!」由美はさらに恐れを抱いて叫んだ。
彼女の言葉は、今さら遅いかのように、周囲の木々の間に消えていく。
しかし、健二はそのまま先へ進み、「こんなこと言ったら、村の伝説を信じているってことになっちゃうよ。」と冷静を装った。

その時、ふと目の前に奇妙な木が立っていた。
年輪の数ほど刻まれた亀裂があり、まるで誰かの顔の様に見える部分もあった。
「あれ、見て、誰かいるの?」由美が叫び、指差した。
しかし、健二にはただの木にしか見えなかった。
「気のせいじゃないのか?」

二人は再び進むが、声はますます近づいてくる。
「悔いているのか?おいで…おいで…」まるで目の前で誰かが囁いているようだった。
その度に健二の心に、忘れかけていた悔いが蘇る。
小学生の頃、親友を助けられなかったこと。
それ以来、彼はずっと自分を責め続けていた。

健二は徐々にその場に圧迫されるような気持ちになり、由美にそのことを打ち明けた。
「実は、ずっと悔いがあるんだ。彼を助けられなかったことが…」彼の心の内を告げた言葉は、周囲の空気を変えた。
しかし、由美はただぎゅっと彼の手を握りしめた。
「そんなこと、もう忘れよう。私たちは前に進むべきなんだ。」

健二はその言葉に少し救われた気がしたが、しかし、声は次第に鋭くなり、「そうか、忘れられぬ悔い…おいで…」と刺さるように響いてきた。
その瞬間、彼は恐怖に襲われ、もう後には引けないことを実感した。

「由美、もう戻ろう。これ以上は無理だ!」健二は必死に言ったが、由美は無言で立ち尽くしていた。
木の間から何かが見え隠れし、その中から虚ろな目を持つ影が迫ってくる。
彼女の目は何かを見てしまったのか、まるで取り憑かれたようだった。

最後の力を振り絞り、健二は由美の手を引っ張った。
「美弥、行こう!」しかし、その時には彼女はすでに声の誘惑に心を奪われていた。
「おいで…おいで…」

どこかで悲痛な声が響き渡る中、健二は彼女を抱きしめ、決して離さないと決意した。
「一緒に出よう、絶対に逃げ出すんだ!」その時、彼の強い意志が心の中で再び希望の光を灯した。

しかし、山の奥はすっかり暗く、彼らの周囲はいつの間にか異常な静寂に包まれていた。
そしてどこからともなく再び声が聞こえた。
「悔の念は、安らぎを求めている。おいで…」

それは、悔いを乗り越えられない者たちの声だった。
二人が逃れることができるのは、この瞬間だけ。
健二は再び由美を引っ張り、力いっぱいに駆け出した。
そして、手を離さないことを誓ったのだった。

しかし、彼らの前には出口は見当たらず、再び声は次第に静かに、しかし確かにその距離を縮めていった。
心の奥底に残る悔いは、彼らを永遠にその場所に引きつけようとしているのだろうか。
二人の深い絆は試され続け、道は果てしなく続いていた。

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