ある静かな夜、田中は友人たちと一緒に、学校の体育館で行われる肝試しに参加することになった。
いつも騒がしいグループだが、この台の上に集まると、何故かみんなの口から言葉が出にくくなる。
体育館の周囲には不気味な雰囲気が漂っており、月明かりが古びたラケットやボールを薄い影に変えていた。
「今日は、特別な場所に行くんだ」と、一人の友人、佐藤がにやりと笑った。
「台の下に、昔の部活の先輩が幽霊になったって話を聞いたことないか?」周りの仲間たちは、その話を聞いて一瞬凍りついた。
しかし、好奇心が勝り、彼らは従うことになった。
佐藤たちは、体育館の中央にある台に近づく。
そこには誰もいないはずの成績優秀な部員が、幽霊のように存在しているとされる場所だった。
そして、その台の下に「露」という不思議な現象が起こったと噂されていた。
台の下で誰かが真実を見た、その声が響くと言うのだ。
薄暗い空間の中、田中は一歩前に出て、台の下を覗き込む。
すると、突如として冷たい風が吹き、明るかった月明かりの中に、一瞬だけ影が映った。
それは白い着物を着た女性の姿だった。
瞬間的に、田中は驚き、声にならない悲鳴をあげた。
その影は静かに消えたが、彼の心には「確かに何かがいた」という思いが焼き付いていた。
狂ったような興奮の中、友人たちも一斉に台を囲むようにして笑っていた。
「何か見えたの?」と、鈴木が田中の肩を揺らしながら尋ねる。
田中は恐れから言葉を失い、ただ頭を振った。
しかし、彼の様子を見て、友人たちの興味はさらに高まった。
もっと深い話をしたくなり、彼らは一人ずつ台の下を覗き込むことになった。
鈴木が覗くと、今度は自分の視界に映るものがあった。
声が聞こえたのだ。
「助けて…」その声はかすれて、台の下から響いてきた。
鈴木はその瞬間、恐怖からすぐに立ち去ろうとしたが、体が固まった。
彼の目の前に再び白い手が浮かび上がったのだ。
その手は、鈴木を引き寄せようとしていて、彼はその手から逃れようと必死で動こうとした。
その様子を見て、他の友人たちは近づこうとしたが、彼らの目には暗い霧がかかり、何も見えなくなった。
田中はうろたえた。
「鈴木!」彼の声が響くが、鈴木はどんどん台に近づいて行く。
皆が怯え始める中、鈴木が急に倒れ込み、台の下に引き込まれた。
それから数分後、静寂が訪れた。
田中と他の仲間は、動けずに立ち尽くしていた。
呼びかけても返事はなく、唯一響くのは心臓の鼓動だけだった。
最終的に、彼らは急いで体験を忘れようと学校を後にしたが、心には「露」の神秘的な現象がどこかに潜んでいる気配を感じていた。
数日後、鈴木は普通に学校に戻ったが、彼の目にはいつも寂しさを宿した影があった。
仲間たちは彼を問い詰めたが、鈴木は「何もいつも通りだ」とだけ答える。
田中は、あの夜の出来事を思い返しながら、意識が忘れ去られていくのが怖くなってきた。
次第に、鈴木の変化に気づく友人たちが増えた。
彼は過去の思い出を口にし、やがて仲間たちとの絆を再確認するようになったが、台の下の出来事を語ることは決してなかった。
彼の心の中に芽生えた恐怖は、決して消えることがなかった。
夜が明けても、その台には静けさが続いていた。
そして、いつの日か再び訪れることになるかもしれない「露」が、仲間たちの心を蝕んでいくのだ。