「束縛の玉」

夏の終わり、古びた祖母の家に帰省した拓也は、子供の頃の懐かしい記憶が薄れ始めるのを感じていた。
祖母は高齢となり、つい最近まで元気だった彼女も歩くのがやっとなほど衰えてしまっていた。
その日、家族全員が集まる中、拓也は祖母の元へ向かった。
明るい笑顔で迎えてくれる祖母に、子供の頃の思い出話をする時間は温かく、束の間の幸せを感じた。

夕方、祖母は何かを思い出したように目を細めた。
「拓也、あなたに預けたいものがあるの。」と、祖母は小さな箱を取り出した。
古びた木の箱には、祖母の家系に関わる不思議な魔法が宿っているという。
「この呪物は代々受け継がれ、家族を守る力を持っている。」祖母は語り始めた。
彼女の声には、何か特別な重みがあった。

拓也はその言葉を半信半疑で聞いていたが、彼女の真剣な表情に引き込まれる。
呪物は「絆の玉」という名で、持ち主とその相手を一生涯結びつける力を持つとされていた。
しかし、その力を悪用すれば、二人の関係は束縛に変わるとも言われていた。

「誰かを思っているとき、これを持っていてごらん」と祖母は言い、拓也にその箱を預けた。
彼はその言葉を軽く受け流し、箱を自室に戻した。
夜、拓也は思いを寄せる同級生の美香を思い出していた。
「彼女が私をどう思っているか、わからない…。」と考えながら、その玉に手を触れた。

すると、不意に強い閃光が広がり、目の前に美香の姿が浮かび上がった。
驚いた拓也は、彼女の目を見つめた。
彼女の笑顔は、嬉しそうだった。
しかし、その瞬間、彼女の表情が一変した。
美香は恐怖に満ちた表情で拓也を見つめ、その視線がどこか冷たくなった。

翌朝、拓也は気持ちを整理しながら過ごした。
しかし、その日から美香との関係が変わってしまった。
彼女からの連絡は途絶え、学校でも避けられるようになってしまった。
彼女の友人たちからも「美香はもうあなたとの会話を望んでいない」と言われ、心が重く締め付けられるようだった。

不安が募る中、祖母を訪ねた拓也は、彼女にその経緯を話した。
祖母の表情は険しくなり、「その玉は絆を強くするだけでなく、呪いにもなる。思いを謳歌するだけなら、誰にも強要することはできないの」と警告した。

その晩、日に日に美香との距離が広がることに耐えきれず、拓也は再び玉を取り出し、自らが提案した。
彼女に会いに行く力を与えてほしいと願った。
しかし、今度は自分の思いとは裏腹に、玉から流れ出た冷たさが彼を包んだ。
美香の夢に現れた彼女は、泣きながら「私を解放して…」と叫んだ。

彼女の苦しみが拓也の心を貫く。
彼は自分が美香の自由を奪っていたと理解した。
拓也は心から美香を思い、お礼を言った。
「君を助けるから、もう束縛をしない。」その決意を胸に、玉を手放した。

次の朝、目覚めた拓也は、驚くべきことに美香からのメッセージが届いていた。
「話がしたい」と。
彼は心が晴れ晴れとし、彼女に会うことを決意した。
そして、彼女と過ごす時間が戻ったことを実感し、少しずつ関係が回復することを願った。

後日、拓也は祖母を再び訪れ、彼女の教えに感謝した。
「あなたと美香の絆が本物であれば、自然に結ばれるはず。無理強いではない本物の愛が大切なの。」その言葉に、拓也は心から納得した。

しかし、彼は知らなかった。
祖母が語った呪物の秘密は、多くのことが見えない力と結びついていることを。
果たして彼が美香との関係を完全に取り戻せるのか、彼の意志が試される旅が始まったことを。

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